[Interview] Molder (PT.1)

2017年初め、虹釜太郎さんを発起人とし<WOOD TAPE ARCHIVES>を立ち上げたわたしは、その春に京都の”外”で開催される虹釜さんのレクチャーに同企画の件で出演するため同行することに、合わせて神戸のSPACE EAUUU伊勢の2CHYOUME PARADAISEでもイベントを開催することになり、結果この旅行は4泊5日の連続イベントサーキットとなった。そのうち神戸はbonnounomukuroとわたしの共催で、こちらのリクエストでyabemilkさんにご出演いただいたのだが、その際にボンノーさんより推薦されたのがこのMolderさんである。

かつてのゲーム音楽のようなどこか懐かしい音色に、ミニマルを基調としながら編み物のように音のひとつひとつを編み上げて美しい模様にしていくような作風。2010年以降のエレクトロニカが陥りがちだったインスタントなエモにも寄り過ぎず、とはいえ一部のニューエイジ/アンビエントにもある膝を抱えるような内省的なものでもなく、全体的には穏やかかつポップに響く。全ての音に必然性があり、無駄なものが一つも無い。Molderさんのライブを聴いた我々一行は衝撃を受け、すでに自ら制作発売していたこの1stCD『Mr.Granola』をその場で買い求めた。
少し時間を空け、その夏に<New Masterpiece>でも新作をとオファーし、メールで打ち合わせなどして彼の人となりを知る。自然と植物を愛し、時に何日か山に泊まり込み(当然『ゆるキャン△』が流行る前の話だ!)、そのインスピレーションを作品の血肉にしているという。秋にデータ版を、翌春にカセット版をリリースした『FF』は2曲各20分の長尺EPだったが、ジャケのアイデアとして「シダ植物が何重にも折り重なりフラクタルな模様を作る」そのイメージの明確さに驚いたものだ。そう、この人はコンセプトありきで作品を仕上げており、この頃すでに(今年2月にデータで先行配信した)『Gnome』の音源を作りためていて、テーマについてスケッチしたイラストも見せてもらったりした。

電子音楽家…そう、エレクトロニカ・アーティストとかより”電子音楽家”という肩書きがよく似合うのだ、この人は。
貪欲に世界中の流行に乗っていかないと置いていかれてしまう東京に比べ、関西には流行と独特の距離と価値観を持つ電子音楽家が多い。Rei Harakamiをはじめ、竹村延和、佐脇オキヒデ、高木正勝…枚挙にいとまもないが、神戸在住のMolderさんもまさしくこの系譜に連なる一人であろう。

2021年、病禍により音楽を含めたエンターテイメントが気軽に楽しめなくなってからついに季節が一巡りしてしまったこの春、Molderさんは2作のアルバムを発表した。前述『Gnome』のカセット化に、最新作のCD『Bony Tymbals』。彼はこの2作と1st『Mr.Granola』を合わせて、“自我三部作”と銘打っている。この”自我三部作”とは一体何なのか? 独自の音楽性を持つMolderさんにメールインタビューを決行した。

Q1.
音楽を作りはじめるきっかけは何ですか? 誰かとバンドを組んでいた/絵を描いてた、登山サークルなどで活動していたなどあれば教えてください。

A1.
もともとは絵に興味があって、美術学校で版画を制作していました。当時から音楽は好きでしたが聴くだけで、自分で制作出来ると思ってなかったです。
ただ、学校にバンドでギターを弾いている友人がいたり、音楽好きが自然と集まっていて、ごはん食べながら一緒に架空のバンドを妄想していた流れで、ノイズバンドをやることになって、それが音楽制作の切っ掛けになりました。バンド名や曲名を考えて、自分達でウケてただけだったんですが、現代美術家の大竹伸朗さんとBOREDOMSのEYEさんのユニットPUZZLE PUNKSとかに影響されて、何かガチャガチャやったらできそうな気がしてたのを覚えてます。作るものが何であれ、とにかく形にすることが楽しかったです。美術学生らしいことをしてました。
メンバーのひとりがKORGのELECTRIBEサンプラーを持ってたので貸してもらって使ったんですが、それで楽器が弾けなくても何か作れると知りました。身の周りの物を叩いてカセットレコーダーに録り溜めた音をサンプリングしてました。バンドは学祭で一回きりのライブを行って自然消滅しましたが、その後も惰性で即興ライブをやって録音したりしてました。学校や公園でやったら怒られて、海とか山まで行ってやったり、バンドメンバーの個展でまたノイズユニットのライブをしたり、色々やってました。
そんな中、Roland SP404でサンプリングしてソロでトラック作ったりもしてました。その頃はAnimal CollectiveのPanda BearがSP303で単純なループサンプルのみで割とポップな曲を作ってたのに影響されました。この時期にソロで作ったものがMolderの下敷きになってると思います。(その時使っていたSP404は数年前に電子音楽作家のbonnounomukuroさんにあげました。)
先日『Bony Tymbals』というアルバムを発表しましたが、実は10年以上前にサンプリングで同じタイトルのアルバムを作っていたんです。内容は全く違いますが「Parade」っていう曲は当時二度作ってて(一度目は壁を叩いた音・ギターの音・グラスを叩いた音、二度目は主に雅楽をサンプリングしました)、その頃から自分の内面にずっと流れている感覚を音楽で捉えようとしてたんだなーと思います。

Q2.
現在のMolder名義を始めるまでの経緯は?

A2.
学校を出た後は自分が何がしたいのかよくわからなくなってしまって、絵は大体白く塗り潰して、東京から神戸の地元に戻ってきてしまいました。でも今思い返せば、ジャズのレコードで架空の映画サントラ風コンピを作ったり、水彩絵の具や色鉛筆で抽象的な絵を描いたり、自然とまた何か作ることを始めてて、自分は何か作らないと生きていけないんだなーと思いました。
ある時、弟が「Chemical Brothersみたいなのやろうぜ」って急に言ってきて、「うん、やろかー」みたいな軽いノリでシンセサイザーを2台買いました。最初はリズムとフレーズを二人で分担するという、ありがちな発想だった気がします。でも気付いたら自分しかやってなくて、弟に「曲できた?」とか聞かれるだけになってたんですが、全然嫌じゃなくて、サンプリングと違って、シンセの音やフレーズを一から作れる要素が楽しくてガンガン一人で作ってました。
本当はオリジナルの音楽作りたいのになかなか始めない自分に、弟がナイスパスをくれたってことなんだろなーと…本当のところは知らないんですが、そう思うようにしてます。美術学校で一緒に色んな活動をした友人が、自分のサンプリングで作った作品を褒めてくれてた事も、背中を押してくれました。この頃からシンセで曲を作るということをやりたいという自覚を持ち始めました。2013年くらいだったと思いますが、一人で山に登りだしたのもこの頃です。
具体的に参考にしている音楽は無いんですが、その都度色んな音楽を聴いてきて全部に影響されてきたと思います。個人的な感じのある音楽を好きになる傾向はあると思います。それも主観でそう思い込んでるだけですが…。
今もどういう音楽が作りたいかハッキリしてない部分はあります。自分がどんな音楽を求めているのか、自分の内面でどんな世界が形作られていくのかを知りたくて作っているようなところがあります。

Q3.
登山やその途中に出会った植物などからインスピレーションを受けているようにお見受けしますが、Molderさんが現在のスタイルに辿り着くまでには、登山と音楽制作、どちらが先に出会ったのでしょうか?

A3.
登山と音楽制作は殆んど同時期に始めましたが、登山のほうが早いと言えるかもしれません。
登山は子供の頃に父親によく連れていってもらってた経験が下地としてあって(今でもよく一緒に登ります)、近年職場の同僚と山に行ったりしているうちに、自分で道具を買い揃え始めたのが切っ掛けで、一人でも登ったりするようになりました。
自分にとって登山は全てにおいてインスピレーションの源です。山それ自体も、そこにある植物や生き物も、生きていようと死んでいようと全てが語りかけてくるようなところがあります。水、岩、風、光、色や形ですら、山の中ではそういった存在になります。また山に登って、道を歩いて、食べて寝て、降りて家に帰るという一連の行為が様々な物事に通ずるところがあると感じますし、その道を誰かと共に歩くことや、独りで歩いて全て自分の責任において判断することと、そこで得られる自由と危険とか、体感を通して得られる視座のようなものが登山という行為の中にあると思います。あと上がる下がるという構造とか、暑い寒いとか、明るい暗いとか、物事の両義的な側面をまるごと体感できると、心にすごく良い働きがあると思っています。もちろん体にも良いです。
自分の場合は、登山という行為を経てようやく物事をきちんと解釈できているように感じることが可能になっているということだと思います。自分の精神や、他者との関係性も山を通して見ることができますし、音楽に対しても同じように山で解釈することが多いです。イメージを通して音楽の内側にあるものを深く知って体験するような感じです。そうやって音楽を作ることで逆に自分の心に何があるのか気付かされます。アルバムを制作することは心の中にあり続けているものに繋がりを見いだすような行為だと思っていて、繋がるということは物語のようなものが立ち上がるということでもあります。物語が立ち上がるということはそこに道が存在していて、結局のところ道は内面の山へ入っていくんですが、その山は現実に自分が歩いた山でもあるので、そこで内部と外部が循環していくというか、シンクロするように感じています。
だいぶ質問から外れた回答になって、つい山を語ってしまってますが…山と音楽の関係性は自分にとってそんな感じです。

(PT.2に続きます!)

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