Tori Kudo and Rick Potts / Ka-Bella-Binsky-Bungo!

2011年、kayo makinoが主宰していた東京のレーベル dependent direct sales (DDS) から150部限定で出版された工藤冬里とリック・ポッツのデュオによるCDRアルバム。その仕様はとてもじゃないけど一筋縄で収まるものではなく、LAFMSの創設メンバーでありイラストレーターでもあるリック・ポッツによるイラストが盤面にプリントされたCDRのほか両アーティストそれぞれが書いた作品についてのテキスト、お互いのことを記しあった濃厚なライナーノーツ、そして、陶芸家でもある工藤冬里にまつわるブツや、作品や作家と脈絡があったりまったくなかったりするチラシやポストカード(私が所有するものには“劇団そぞら群”の古いチラシも……知らんけど)が黄封筒にごっそり封入された一点もので、まるでダダ〜フルクサスらを源流とするメールアートのような意匠があり、自宅に届けられたときにはひどく興奮したものだ(郵送のみで手渡しの販売はしていなかったと記憶する)。


リック・ポッツが「ナンセンスマントラ」と呼ぶその内容は、ときにヒリヒリときにマッタリ、ときにコミカルときにリズミカル、ときにシリアスときにベラボウ、ときにシュールときにユーモラス、ときにパンクときにサイケに……両者が発する音という音がこもごも入り乱れてじつに風味のあるアヴァンギャルドを展開する。フェンダーローズを片手にマックの音声再生ソフトを駆使して不可思議な言葉を並べ倒す工藤冬里。可能な限りのモノや楽器を使い、民族的アプローチで自発的な音を鳴らすリック・ポッツ。その奇天烈すぎる音の交感はまるで最初期のハーフ・ジャパニーズ、はたまたパズルパンクスに頭をガツンとやられたときのような衝撃をともない、言語コミュニケーションのはるか彼方で自由に漂い遊ぶ秘境のお遊戯にばったり遭遇したような目撃感がある。捕まえようにも脇の下をするりとすり抜ける音・オト・おとの不思議大百科。変てこりんでかっこ良い。これ最高である。


同年、(いまはなき)六本木スーパーデラックスにてこのデュオによるライヴが開催された。リック・ポッツが使用していたのは、サンプラー、ガラクタ、笑い袋など音が出るさまざまなおもちゃから、ネックが途中でべこんと折れ曲がり、だら〜〜んとたわんだ弦の響きが横山ホットブラザーズのノコギリ芸ばりに時空をすっとこどっこいに歪ませる「ちょうつがい首ギター」ほかもろもろのもろもろ。工藤冬里はギターやピアノをメインに音を出しつつ、いろんな角度とタイミングで椅子の足をフロアに擦りつけて「ギギギィーー」と引きづり回して攻撃的な軋みを発するなど異様な緊張感と心地良いトリップ感を醸し出していたのを昨日のように思い出す。最底辺にして最高峰の騒音。徹底的な「ノー!」から産まれる意味をもたない、つくらない、もちこませない音楽。肩から耳に息を吹きかけられるように生々しくも混じり気のない音の連続に、いつしか音楽からはぎ取られていた原石を見たような気がした。


余談になるが、水木しげるから多くの影響を受けていたというリック・ポッツ。その奇妙な佇まいが「足長手長」のように見えたのは私だけでしょうか?