metome,uratomoe,speedometer. / DARK, TROPICAL

流行病の中で音楽を聴く機会が多かったのかはわからないが、例年通り2020年のベストを挙げる人が自分の周りには多かった。かくゆう私といえば現場に行き人に会う機会が無くなることにより、最近何が面白いか聞く機会は失われてしまう。そうなるとネットで語られるフレッシュな新譜の話も自分からはすっかり遠い土地のトレンドに感じることが多く、「ま、あとで聴くか…」とスルーすることが多くなってしまった。…いや、そもそも流行りを速攻チェックする性分でも無かったんで、こんなん言い訳にすぎないんだけど。

というわけで、ここに挙げるのは2020年、最初の非常事態宣言のあたりに聴いていた新譜。1990年代半ばに田中フミヤのレーベル<とれま>傘下<UNTITLED>からデビューし、レイザーラモンらによる下ネタラップグループ・ビッグポルノのトラックを制作していた高山純さんのビートもの名義・speedometer.(※UKに同名のFUNKグループがいるが無関係)。今作は若手トラックメイカー・metomeさんとエキゾなアルバムを多くリリースする作曲家・浦朋恵さんとの連作である。

高山さんが10年前に組んでいた”AUTORA”は、エキゾチカをニューウェイヴ〜現在進行形の電子音楽で解釈した唯一無二のユニットで、山本アキヲとの2人体制での1stからギターにneco眠るの森雄大、ドラムにBOGALTAの砂十島NANIを加入させ一気にバンド化した2nd「OLGOI KHORKHOI」を発表、何処の国を舞台にしたのかわからないエキゾチック・ミュージックを奏でていた。ここ数年サンプリングでなく自作曲でのアルバムを発表したKING OF OPUSにも共通するこの系統は、鶴岡龍(LUVRAW)やVIDEOTAPEMUSICといった後継とも連動してるように見え、今でこそ日本のシティポップスが海外のマニアに注目され一気に主流化しているが、そうならなければこちらが主流になっていたのかも…いや、そんなことも無いか。

AUTORAの活動休止後、山本アキヲは7インチ専門のレーベル<TONGS INTERNATIONAL>を立ち上げており、その共同設立者がエンジニアの椛島隆と、メインとして自らも作品をリリースする浦朋恵さん。レーベルカタログには高山さんによる「TABOO」のカバーがラインナップされていた。metomeさんは過去にAUTORA主催のイベントにも出演している。しかしここに来て点と点だった三者が、このCD不況にCDとして作品を出すとは思わなかった。

本作”DARK,TROPICAL”は、まさしくそのAUTORAの直系の続編だと解釈できる内容だ。一見オムニバスのようでいて高山さんが指揮しているのだろうか、三者ともが同一のコンセプトで混ざりあって1つのユニットのアルバムとしてなんともまとまりよく仕上がっている。ジャケットから暗いアルバムなのではと聴くのを躊躇されるかもしれないが、ラスト近くのmetomeさんのダーク・アンビエントも実に心地いい。2814の暗さに似ているかもしれない。
ブックレットに使われている写真のセレクトも見事だが、何よりCDを意識した意匠が素晴らしい。重苦しそうな深緑のジャケットは水面を表しているわけだが、何かの大陸と海に見せかけて実は水槽の中とも見える。さらにCDの透明プラケースそのものが水槽に見立てられてデザインされており、控えめながらその細かなアイデアに頭が下がる思いだ。