高木完/HELLO

先日のDOMMUNEでの配信、私は仕事帰りで飛び飛びでしか見られなかったんですが、前作『ARTMAN』(1997)の話題は上がっていても現時点では本人名義での最終作『HELLO』(1999)はあんまり話題に出てなかった気がしたので、この盤について書こうと思ったんですが、サブスクどころかYouTubeにすら曲が上がっていない始末。確かにHIPHOPからは逸脱し、完全にタガが外れてた時期の作品だからなあ。

『HELLO』収録曲で唯一YouTubeに上がっていたのは、YOU THE ROCK☆をフィーチャーした手塚治虫トリビュート曲。『マグマ大使』(1966)は初代『ウルトラマン』とかつて人気を二分していた手塚治虫原作の実写怪獣特撮物(企画していたのは鷺巣詩郎のお父さん)で、たびたび特撮物からの影響を語っていた完さんだが、ここでは原作漫画からのインスパイアが強いYOU THE ROCK☆のリリックがとても面白い。この時期おたく趣味ってラッパーにとってまだまだダサいと扱われる表現だったはずだが「四次元跳躍法少年画報/特殊音波狙うゴアの野望」など単語の使い方がクールに決まっている。手塚トリビュートコンピに収録されたこのバージョンと違い、アルバムでは派手な音が減り、ぐっとアブストラクトな仕上がりになっている。

スピリチュアルに傾倒していた『ARTMAN』の路線も引き継ぎつつ、『HELLO』はニューウェイヴの要素が濃くなってきている。かつて本人が所属していたバンド・東京ブラボーのセルフカバー(なんでもFat Boy Slimから影響受けてやることにしたとか…)から始まるが、これがボーカルをケロ声に変調させておりすっげえ違和感あり、何故そうしたのか謎だ。本人の肉声が出てくるのは4曲目のドラムンボッサ『Wonder Walk』からだ。
この上に上野耕路の作るヒップホップ(さすがにビートは足しているが)!、EYEとのユニットSOUND HEROによるフィーレココレージュ、電子音が飛び交う八丈島郷土民謡のカバー(唄:木津茂里)、詳細不明の民族ボーカルの上に展開される小泉今日子とのデュエット曲、Money Markがブルージーなキーボードを聴かせる『ひとつ』(東京ニューウェイヴバンドの”自殺”がカバーした山口冨士夫の曲をさらにカバー)…などといったこの人でしか成り立たない異常なトラックが並ぶ。もしかしていまだにサブスクにも動画に上がらないのはハイブロウにも程があるからか…!? まさに1990年代末の怪作だ。