Tony Conrad / Bryant Park Moratorium Rally

1969年10月15日、午後。マンハッタン42番街にあるロフトの5階にて、録音のためのマイクを調整するトニー・コンラッド氏。左マイクは近所のブライアント・パークで開かれていた反ベトナム戦争集会の熱気がもれ聞こえる部屋の窓に向けられ、そして、右マイクはその集会の様子を実況生中継していたコンラッドの部屋のテレビに設置され、ローカルニュースの音声を捕獲する。

そんなフィールドレコーディングとしての特異すぎるアイデアだけでも好奇心をくすぐるのに、この録音には、群衆の演説、怒号、歓声、シュプレヒコール、車のサイレン、クラクション、警官のホイッスルなどのエネルギッシュな騒音。そして、ニューキャスターやコメンテーターのトークらが、ささくれ立った砂混じりの暴風のように迫りくる混沌として収められ、さらには、左の現実の音(リアリティ)が右のテレビの音(メディア)より少し遅れて聞こえてくるという—— メディアに踊らされる大衆を批判するかのようにも響く⁉︎—— 天然エコー/ディレイ効果を得られることにより聞く者の耳が研ぎ澄まされ、みるみる開いてはぐちゅぐちゅと感度を高めていき、終いには自分の耳がコンラッドの耳と入れ替わったような……いわく言いがたい快感を味わうことができる

現場の不穏と居間の平穏。一つの出来事が耳のすぐ側で同時進行しつつも、平行線のままいつまでも交わることのない似て非なる二つのノイズ。

本作のコンセプトを含めた実験音楽としての素晴らしい成果は言わずもがな。そして、この音は、そこにコンラッドが居合わせたという歴史的偶然と録音手法の奇妙な閃めきによって永久保存された「モラトリアム世代の熱くて淡いノスタルジア」としても貴重なドキュメントである。しかしながら、この記録をただ楽観的に耳にするには、まったくもって世界はいまだに悲劇的すぎる。