こうして…

……………… こうして俺達の家には新しい家族が増えたのであった……。
「ところでアイリ、どうしてあんなことをしたんだい?あれでは我々の立場が悪くなってしまうだけですよ?」
「だって……どうしても許せなかったんです。お義母様やお兄様に危害を加えるような輩は……」
「まったくあなたは……そんなことで怒らなくてもいいんですよ?」
「いえ!そんなことではありません!私の大切なお二人が傷つけられることがどれほど辛いかおわかりになりませんか!?」
……うーん。俺はこういう空気苦手なんだけどなぁ〜
俺はチラッと横目でアイリを見る。アイリの目には涙を浮かべていて、それを見た母さんもアイリのことを見つめながら泣いていた…………
俺は居た堪れない気持ちになってしまった……
「ごめんなさい、お義母様、泣かないで……」
「大丈夫です。あなたの思いはちゃんと伝わっていますよ。アイリ、もう怒っていませんか?」
「はい、お義母様!」
(この子マジ天使!ってかなんなのこの状況!?!なんで俺がこんな目に合わなきゃなんねえの?おかしいよね?なんかおかしくない?)
俺は心の中で叫びまくっていた。すると、 ガチャッ…… 玄関の扉が開く音が聞こえてきた。
「あら、どうやら迎えが来たようですね」
「迎え……?」
「はい、お姉様のことです」
「お姉様!?」
俺は慌ててリビングを出て、階段の下まで駆け下りた。そしてそこには……
「おかえり、姉貴。随分遅かったじゃねえか」
「ただいま、ご主人。少し面倒なことに巻き込まれちゃってねぇ〜」
そう言いながら姉貴は手に持っていたバッグをテーブルの上に置いた。
この人は『橘花凛』俺の二つ上の姉だ。見た目はかなりの美人で、性格は明るい。だがかなりの変人でもある。ちなみに『ご主人』というのは姉貴が勝手につけた俺への呼び名である。そして、この人の職業は『殺し屋』であり、俺の育ての親でもある。
「まあいいけどよ、それより何があったんだ?」
「実はねぇ……ちょっと色々あって、その辺の話もしたいからとりあえずご飯作ってくれる?」
そう言うとお腹がぐぅーとなった。どうやら空腹らしい。
「わ、わかったよ……ったくしょうがねえな……」
「悪いね、私も手伝おうか?」「あ、いいわ。一人で作れるし」
「そっかぁ……あ、そうだ。これ、あげるから二人で使ってきな」
そう言って取り出したものは黒いカードのような物だった。
「おい姉貴これは一体なんだ?」
「それは『魔導書』を収納できるカードさ。本当は『魔核』があれば良かったんだけど、今は持ってなくてねぇ……今度会った時に渡すつもりだったのさ。」
なに?『魔核』だって!?そんなものどこで手に入れたんだ!?俺は心の中で驚愕した。しかし俺の顔はきっとニヤけていただろう。
「へぇ〜 ありがとうな。ありがたく使わせてもらうぜ」
その後、俺達は三人で食事を摂り、今日あった出来事を話したり、世間話に花を咲かせて、楽しい時間を過ごした。夜、皆が寝静まった後、私は一人部屋を出た。向かう先は地下室だ。そこに私が求めるモノがあるのだ。私は階段を降りていく。すると薄暗い空間の中に二つの影を見つけた。
「お久しぶりです。『ジン』様」私は丁寧に頭を下げた。
「おひさ、『ミレイユ』元気してた?」『ジン』は気さくな口調で言った。
「はい、おかげさまで。それで早速なのですが……」
私は『魔核』を渡そうとポケットに手を入れた時…… ガタッ!! 背後に気配を感じて振り向いた瞬間、腹部に強い衝撃を感じた。次の瞬間、目の前が真っ暗になった…………………… 意識が覚醒した時には両手足を拘束され床に転がされていた。「目が覚めたかい? 眠り姫さん」
「お前達は……!」私の目の前には『悪魔』が立っていた。そうか……。ここはコイツらの隠れ家だったのか……。
「くっ! 離せ!」私は必死に抵抗するが無駄だった。
抵抗虚しく私は連れていかれた。着いたのは大きな檻の前だった。中には大きな黒い竜がいた。
「この子の名前はドラニアよ。可愛いでしょう?貴方達二人とも私達に奉仕してくれるって言っていたからね。今日からここで飼うことにしたわ」
そう言って『悪魔』は不敵な笑みを浮かべた。そして檻の鍵を開けると『悪魔』は中に入っていった。その後に続いてドラゴンの子供も入っていった。そして扉は閉められた。私は何とかここから出ようと身体を動かそうとしたがビクともしなかった。その時「グルルル……」という声が聞こえた。私はそちらの方を見た。するとそこにはひとり子供がいて、こちらを見つめていた。
私はその視線に恐怖を感じた。すると突然、子供が近づいてきた。私は慌てて逃げようとするが手錠のせいで上手く動けない。その間にも子供との距離は縮まっていく。そして子供は私に向かって噛み付いて来た。「キャアァッ!!」子供の牙が深く刺さり激痛が走った。しかし痛みに耐えながら暴れるとやっと子供を振り払うことが出来た。だがすぐにまた飛びかかってくるだろう。だから私は大声で叫んだ。「助けてーー!!!誰か来てぇーー!!!お願い!!ここから出してー!!!!」私が叫ぶとしばらくして部屋のドアが開かれた。私はホッとしたのも束の間、「うるさいぞ小娘!!静かにせんか!!」と怒号が響いた。
「あぁごめんなさい。すぐ大人しくなりますんで……」と言いつつ男が入ってくる。どうやらあの怒鳴った男のようだ。すると男はニヤリと笑い「いいだろう、俺達が相手してやるぜ。おいお前ら!」と言って男の仲間が部屋に入ってきた。「ひひっ、楽しみましょうね」と女が舌なめずりする音が響く。すると「ちょっと待ってくれるかな」と『悪魔』が割り込んできた。
すると男が苛立ち気味に言う。
「何だよ?邪魔するんじゃねぇよ」
「ふむ……では一つ提案があるんだが……」「あん?」
「私にもこの子を触らせてくれないかね?」
「へへっ、良いですよ」
そう言って仲間の一人は子供の背中を撫で始めた。それを見て他の者達が騒ぎ出す。そして『悪魔』が子供に手を伸ばそうとするとその腕を仲間の一人が掴んだ。
「おい!止めろよ!!」
「なんだと? 俺はこの子に触れる許可を出したはずだが?」と『悪魔』は言った。その迫力に仲間は怯えた表情になる。
「そ、それは……」
「なら私の勝手だな。んっ……」
『悪魔』の手が子供の肌に触れた瞬間、『バチィ!!』という音と共に弾かれた。「ぐっ!……一体何を!?」
「ハハッ、残念だったな。この子は気に入った人間しか触れさせねぇんだよ」
仲間の男が自慢げに話す。
「そうかい……。ならもうここに用はない。行こう皆」とあっさり引き下がった。
「あれ?殺さないんですか?」仲間の一人が不思議そうにする。
すると「別に殺したって問題無いよ。ただコイツらにそんな度胸が無いだけだ。それに今回は私達だけで楽しむからね」そう言って『悪魔』達は部屋を出て行った……………………

アイリ

お兄ちゃん「なんだよこれ……かた子、かた子の基地外!てゆうか!」え?今更? 妹は俺に何かを言おうとしたけど俺はそれどころじゃなかった。なぜなら……..
「何この音!?」
さっきの比じゃないくらいの大音量で警報音が鳴っていたからだ!
『緊急事態発生。緊急非常体制が発令されました。施設内にいる職員及び関係者全員に通達します』
えぇー!!マジで!やばいって、これは!
『現在当施設は侵入者により攻撃を受けております。避難経路から速やかに離れてください。なおシェルターは敵の襲撃に備えて使用できません』
「えっ?」
『これより当施設は防衛のため緊急モードに移行します。施設内の全ての機能停止。全職員と職員家族の避難が完了し次第迎撃態勢に入ります』
え?どういうこと?何が起きてるんだ?もしかしてさっきの爆発は……でも誰が?そもそも侵入者とは何なんだ?というかなんで俺達まで?まさかここが襲撃されてるのは俺達が関係してるのか?
「どうするのよ!このままだとあたし達は死んじゃうわよ!」いやだから何でお前そんな落ち着いてんの? 妹が慌てるなか俺はあることを考えていた。そしてそれを思いつくと妹の腕を掴み部屋を出て走り出した。向かう先はあのエレベーターだ! 俺達の予想通りエレベーターはまだ動いていた!しかも誰も乗っていなかった!急いで俺達はその箱に乗り込み下へと急いだ!早く行かないと!そう思ってた矢先だった!突然箱が激しく揺れ始めた! ガタガタッ!ガンッ!ガッシャァーン!!ドゴォン!バキィ!グチャグチャ…… ボキッベコッ!メキョ!メリメリメリメリメリメリ!!!!! 激しく揺れたかと思うと急に床が大きくへこんだ!すると次の瞬間俺達はものすごい勢いで下に落とされた! ドンッ!!!!! 凄まじい衝撃の後俺は目を覚ました!ここは一体どこなんだ?なんか周り真っ暗だけど?あぁ〜そうだ!あいつらは無事なのか?そう思い俺は辺りを見渡した。
「いたた……」うん大丈夫だな、よかった。あれ妹がいない?あいつはどこにいったんだ?「おい、どこにいるんだ?返事しろ!」
そう言ってると遠くの方から光が見えた。どうやら出口があるようだ。俺は急いでそこに走った!するとそこには……
「キャハハッ!!」……え? 俺が見た光景、それは…… 大量のゾンビに捕まり首筋に噛みつかれている妹の姿だった……。
「うぎゃああああああ!!!助けてくれえええ!!!」
ゾンビ達に掴まれた妹はそのまま何処かに連れて行かれた。
「ちょっ、ちょまてよ!」なんであんなことに?あいつらに一体何があったんだよ?とりあえず今はここから出よう!それからあいつを助けに行くか。
よし行こうと思ったその時…… ガブッ
「うっ!いっってぇええええ!!!」嘘だろ!まだ他にいんのかよ!?くそぉ!もうこうなったらやってやる! こうしてゾンビ退治の始まりとなった。
……あれから30分後……
「ふぅ、これで終わりか」何とか生き残れたな。それにしてもあいつが連れていかれた方にはいったい何があんだろう?まぁ行ってみればわかるか。

……そして着いてみた結果がこれだよ。なんだよこいつら……こんなの聞いてねぇぞ!こいつらのせいで施設の中もめちゃくちゃになってんじゃねーかよ!これじゃ避難なんてできるわけねえよ!ちくしょう!こうなっては仕方がない。あいつらもこの中にいることを願って俺はゾンビ共を駆逐することにした。だがこの時俺は気づかなかった、この施設にいる奴らは全員既に人ではなかったということを……

その頃エレベーターでは……
(くっ!なんで俺がここに来ちまったんだよ!いいじゃない別に!私と二人っきりになれる機会なんてないかもしれないんだからさ♪それとも私と一緒だと迷惑?)
(うるせぇよ!黙って寝てろよお前!つか、今そんなこと気にしてる場合じゃないだろ!)(んんんんんんんんんん!!!!!!やめろおおおおおお!!そんなこと言ってる場合じゃないだろうが!!とにかくお前だけでも脱出しないと……ってあれなんだ?何か近づいてきてるような?いや違う!上から来てる!ヤバイ逃げろ!!……って遅かった。グボアッ!!)…………
「はぁはぁはぁ、くっそぉ!なんで俺達が死ななきゃいけないんだよ!こんなところで死にたくない!絶対生き延びて一緒に帰るんだ!そのためにも早くここを出てあいつらを探さないと!」
よし!そうと決まればまずはこの扉だ!どうするべきか……ん?これはボタンかな?とりあえず押してみるか。ポチッとな するとガコンっと音と共に上の方に上がって行った。多分これがエレベーターなんだな。さすがに全部壊して進むのは時間がかかるし何より面倒だから階段を使うことにした。でもかなり高いところにあるのか全然見えないけど、どうする?上るしか無いよな。なら行くか! そうしてしばらく歩いてると急に開けた場所に出た。

そしてそこにあったのは大きなカプセルがたくさん置いてあった部屋だった。
なんだ?なんか嫌な予感しかしないんだけど?そして案の定それは的中した。その部屋に一歩足を踏み入れた途端俺は大量のゾンビに襲われ始めたのだ。
ウゲェ〜気持ち悪いぃ〜!!俺はゾンビに噛み付かれないように必死に逃げ回っていた。くっそ、なんで俺がこんな目に!てかなんでこいつら動いてんだよ!?普通死んでたら動かねえだろ!マジ意味わかんねぇ!クソォ〜どうにかならないか?あっそうだ!あれを使えばなんとかなるかも!そう思い懐からあるものを取り出した。よしこれならいけそうだな!早速やってみるか!俺はそれをゾンビに近づけた。するとそれは一瞬光を放った後凄まじい轟音をたてながら大爆発を起こした。その爆風により辺りの物は吹き飛び、辺り一面は火の海になった。あぁ〜やり過ぎた。これじゃ完全に生き埋めだよ。でもこれで道ができた。後はあいつを探すだけだ。早く見つけないと……しばらくしてやっと外に出ることができた。外はもう夜だった。
「おい!どこだ!どこにいるんだ!」
声だけが虚しく響く。頼む返事してくれよ……。すると突然後ろの方で悲鳴が上がった。まさかと思い急いでその場所に行くとそこには、 血だらけの妹と妹の身体を食べてるゾンビの姿があった。

俺は妹の元に走り出すとその勢いのまま蹴り飛ばしゾンビを倒した。妹にすぐに駆け寄り声を掛けた。返事はない。脈はあるが意識を失っていたようだ。とにかく安全な場所に運ぶしかないな。幸いここは地下だし地上に出るまでゾンビに襲われることはないだろう。俺達は急ぎその場を離れ地上へと出た。それから少ししてようやく目を覚ました。だが様子がおかしい、まるで別人のような感じになっていた。とりあえず名前を聞くことにした。

「お前の名前なんだ?」
すると妹は俺をじっと見つめてからこう言った。
『私の名前はアイリ、あなたの妹です』……嘘だろ。そんなバカなことあってたまるかよ。いや落ち着け、まだ希望はあるはずだ。俺にはある秘策がある。そうこれはただの記憶障害だ、きっと元に戻るに違いない。そう自分に言い聞かせながら家へと向かった。

あの事件以来私は記憶を無くしたまま兄と一緒に暮らすことになりました。
これから私と兄の日常が始まるのですね。楽しみです。どんなことをしてくれるのでしょうか?兄は私を楽しませてくれるようなことばかりしてくれた。でも時々見せる辛そうな顔を見るたびに心が痛む。なぜだろう?わからない……兄は何か知っているようだけど教えてくれなかった。どうして?私のためってどういうこと?私の為?何のことなのか全然わからなかった。そんなある日私はあることを聞いた、それはゾンビのことだった。ゾンビとは人を食べる化け物らしい、そしてそいつらを倒すことができる唯一の存在は私たち姉妹しかいないということを。
私はその話を聞いた時なぜか懐かしく思えた。そして何故か涙を流していた。その時気がついたら体が勝手に動き出し気がつくと家の前にいた。そしてそこで倒れているお姉ちゃんを見つけた。
(えっ?お姉ちゃんがなんで倒れて?それにお兄ちゃんもいない……)
(んんっ!あれ?ここ何処?お兄ちゃん!大丈夫!?)
(多分お兄ちゃんの住んでる家の前だと思う)
(やっぱりそうか。それで私達なんでここに?確か家でご飯作ってる最中だったと思うんだけど?それが……)

「…………てことがあったの」
…………なんで俺の家に来てんだよ!てかなんで俺の妹にそんな重要なことが話されてんの!それじゃまるで…… いや、やめよう、考えたくないな。とにかく今はこいつの話を最後まで聞くか。

「そうですか、それは辛い過去でしたね。でもよく頑張ったと思います。そのお陰で今の幸せがあるんですから。ありがとうございます。それとすいません、実は俺にも妹がいるんですよ。今年で高校一年生になるはずだった子なんですけど行方不明になってまして、俺もずっと探しているんですけど見つからないままで。だからアイリさんの気持ち凄くわかるんですよ。大切な人のそばにいたいっていう気持ち、俺にもあるので」「そうだったの、妹さんに会ったことは?」「ないですよ。写真で見ただけなんですけど、でも凄く可愛くていい子だったみたいで、アイリさんにそっくりだって言われてましたよ。いつか会いたいですね」
「そうね、会えるといいわね。でも、その、ごめんなさい。ちょっと席外すわ。すぐ戻るから」
ん?トイレか?まあいいか。
俺は一人リビングでコーヒーを飲んでいた。さて、これからどうしようか?多分もうじき来るだろうしそれまで待つか。しばらくすると扉が開く音が聞こえてきた。多分来たんだろうな。
「お帰り、どうしたんだ?」
「えっと、私あなたの妹になりに来たんだけど……」
は?妹になりたい?え?どゆこと?
「えっと、とりあえず詳しく話してもらえます?」
「はい。実は私があなたの家に来る前の日にあなたの家に行こうとしてたの。でも道に迷っちゃったらしくて気づいたらここに来てたの」
「なるほど。そういうことだったのか。それは大変だったろう。それで?」
アイリさんは俯きながら震えた声でこう言った。
「……怖かった。あんな恐ろしい怪物に襲われてる人を見殺しにするなんて。助けたかった……うっ……本当は見捨てたくなかった……でも、身体が言うことを聞かなかった……。あのとき動けたらって思う度に後悔して……」
涙を浮かべながら語るアイリを俺はただ黙って見ていた。
「だから、私は変わりたい。あの時の弱い自分と決別するためにも、強くならなくちゃいけない。そのためには、あの人の近くにいる必要があるって思った。それにあの人ならきっと受け入れてくれるって思って。どうかお願いします!私を妹にしてください!」
アイリは勢いよく頭を下げて俺に向かって頼み込んだ。

妹……確かに今まで俺の周りには妹みたいな存在がいた、けどみんな俺から離れていった。俺はもう二度と失いたくないんだ。なら俺が選ぶべき選択は一つしかない。この人は妹にはしない。なぜなら俺が本当に妹にしなくてはならない相手はこの人ではないからだ。それはもちろん……

「断る」

……は?今断った?私?もしかして断られた?そんな馬鹿な。こんなことありえないはずなのに。
「どうして……ですか?私じゃだめなんですか?他に好きな人でもいるんですか?ねえ、なんでよ!?なんで私の事拒絶するの?答えてよ!私はあの人に会いに行かなきゃならないのよ!あの人に会えば私のこと……好きになってくれるかもしれないじゃない。私のことを認めてくれるかも……あの人が、私のことを、必要としてくれるようになるかもしれないじゃない!……だから!だから私はあの人の元に居ないといけないの!!邪魔をしないで!!!!!」
そう叫んだ瞬間アイリは俺に飛びかかり首元を締め上げた。その顔からは感情というものが感じられなかった。
(なんだこれ、力が強すぎる。このままだとまずいな。)
(んっ!お兄ちゃん何してるの?)
(いやちょっとな、それよりこいつを何とかしないとな。)
(待ってて、今行くから)
(ああ頼む。だが無理をするなよ。お前の体は普通の人間と変わらないんだから)
(わかってる)…………………… (よし!捕まえたぞ!)
「お兄ちゃん大丈夫!?」
「ああ大丈夫だ、それよりも早く逃げるぞ!あいつが来たら厄介だからな」
俺はすぐに玄関まで行き靴を履いて外に出ようとした。その時……
「おい、逃げようってのか?させねぇよ?」……そこには俺の知らない男が立っていた。
俺の前に突如現れた男。身長は170cmぐらいだろうか、髪の色は黒で短めにカットされていた。服装の方も黒いシャツの上にグレーのジャケットを羽織りジーパンといった感じだった。
「なあアンタ誰だよ。いきなり人の家に上がり込んできて、失礼な奴め。一体どういうつもりなのか説明してもらおうか?」
そう言って俺の隣にいたアイリを後ろに下げ、前に出た。
「おぉ、怖ぇー、まあいいか、別に隠す気もなかったしな。オレの名前は……そうだな、『ダーク』って呼んでくれ」
「へえ、面白い名前ですね。で?要件は何ですか?」
「あぁそうだったな、オレはなお前らに用があって来たんだよ。お前らは『魔人狩り』に狙われてるだろ?まあその女もだけど、だから助けてやったわけさ。これで貸し借りなしな?わかったらとっととその女を渡してもらおうか?」
なに?助けた?嘘をつけ。こいつはおそらく『魔人狩り』の仲間だ。でなければここに俺たちがいることを知っているはずがない。そもそもなぜコイツはこんなことを言っている?まるでアイリのことを知っているような口ぶりじゃないか。まさかこいつが……いや違う。そんなことはない。絶対にあり得ない。もしそうであるならば俺は……
「おい、黙ってないでなんか言えよ」
「あ?え?俺が?いやまあとりあえず落ち着け、一旦座れよ。話があるんだろ?」俺はリビングへと誘導した。そしてソファーに座らせ、コーヒーを出して話をしようとした。
「ほら、これでも飲んで落ち着いてください。あとお姉さんにもお茶出してあげてくださいね」俺はアイリにだけ優しく微笑みかけた。
「はい……ありがとうございます……」「どういたしまして、さあ話はそれからですよ」
「チッ。それで、話ってのはなんだ?もしかして命乞いでもするつもりなのか?」
「いいえ違いますよ。俺はあなたと取引がしたいと思ってましてね。実は……あなたの仲間になりたいんですよ」
「ハァ?なんつった今?お前自分が何を言ってるかわかってんのか?」
「もちろんですとも、俺の目的はただ一つ、あなた方と同じものを手に入れることだけです。そのためならどんなことでもする覚悟はありますよ。だからお願いします、どうかあなたの仲間に入れてもらえませんか?」
「……ふざけんじゃねえよ。誰がてめえみたいな奴を入れるかよ。死にてえんなら勝手に死にな」
「……そうですか、残念ですね」「悪いがそういうことだ。諦めて……っ!?てめっ、いつの間に……」俺の背後にはアイリがいて、アイリの手にはナイフが握られていた。「動くな。次は刺す」……俺はこの女の殺気に身動きが取れなかった。すると……
「やめておきなさいアイリ、今この人を攻撃すれば私達が負けることになりますよ。それどころか殺されてしまいかねません。」
「お義母様!申し訳ございませんでした!」アイリはすぐに謝り俺を解放した。
(ふぅ。全くなんて女だよ。俺が少しでも動けていたら確実に死んでたところだぜ。クソ、なんなんだこいつ、今までの連中とは明らかに格が違うじゃねえか)
「おいテメェ、一体何者なんだ?なんでそのガキのことを知ってる?」

「それは私が教えましょう。彼女は、アイリ・フォーゼット。現魔王軍幹部、四天王の一人、序列3位の『闇夜の狩人』であり私の可愛い愛娘。それが彼女なのです。」「なるほどねぇ。お前はそっち側ってことか?」
俺は立ち上がり銃を構えた。いつでも撃てる体制に入る。アイリの表情を見ると、少し不安そうにしてこちらを見ているのがわかる。
「安心しな嬢ちゃん、オレは敵じゃねえよ」そう言うとアイリの顔がみるみると笑顔になっていった。
(まあ、そうなるわな)
「ところで、さっき言ってた『目的が同じ』っていうのはどういう意味だ?」俺は先程の言葉について質問をした。
「言葉通りの意味だよ。あんたらの持ってるものが欲しいのさ、つまりは『魔導書』って奴がな」

……どうも話が噛み合わない気がする。だがコイツからは確かに強者のオーラを感じる。それに嘘をついているようには見えない。俺は警戒を解くことにした。そして……「魔導書を?なぜ?理由を教えてくれないか?」
「理由は2つある。1つは単純に興味があったからな。あの力を手に入れた者がどうなってしまうのか、それが見てみたいんだよ。それともう一つ、これはオレ個人としてだが、個人的にお前らが気に入ったからだ。だから協力をしてやるのさ」……なにが『気に入った』だ気持ちわりぃ。
俺は心の中で毒づいた。「わかった、お前らのことはとりあえず信用してもいい。だが一つ条件がある」「なんだ?」「俺達は仲間を増やす気はない。たとえどんな状況であってもな。もし誰かを連れて行きたいなら自分たちでなんとかしてくれ」
「フム、それも悪くない。だが、それでも連れていきたいと思えば勝手について行くさ。いいだろう、交渉成立だ」……結局は好きにしろということか。「ところで名前は?」「あぁそうだ、自己紹介がまだだったな。俺は『ジン・タチバナ』ってんだ。一応よろしく頼むよ」俺は右手を差し出した。するとダークも握手に応じた。「そういえばまだ名前を聞いていなかったね、よかったら君の名前も教えてくれないかな?」
「あ、はい。アイリと言います。えっと……これからよろしくお願いします……」「ああ、これからも仲良くしようじゃないか。アイリ、君は私たちの家族になったんだ、もっと胸を張っていいんだよ」そう言って俺の母さんは優しくアイリを抱きしめた。アイリは照れくさそうにしていた。俺はそんなアイリを見て、思わず口元が緩んでしまった……………… こうして俺達の家には新しい家族が増えたのであった……。

コニーマリーのこと

スーパーデトックスサービスゾーン。
江戸っ子気質、という言葉がある。「男ならば、自分の口は自分で拭きます!」という意味らしい。「自分のことは自分で処理します! だから俺のことにかまわないでください」ということらしい。「だから俺はひとりぼっちです……ってか、お前、そんなこと言わせるんじゃねえよ。恥ずかしいだろ?」みたいなニュアンスが込められているという。いや、よく分からないが。
ともかく、この言葉の意味するところがどういうものなのかを簡単に説明したいと思う。

私は「スーパー銭湯に行ってみたい」という気持ちを常日頃から持っていた。しかしなかなか一人で行く勇気はなかった。「じゃあ友達を誘えばいいじゃないか」と思った人もいるかもしれない。
だがしかし、私が友達と一緒にお風呂に行くと、なぜか私は裸になることができず、タオルなどを腰に巻いて入らなければいけないという状況になってしまうのである。なぜ、そうなってしまうのか? その理由はただ一つ。私は胸が小さいからである。友達は皆胸が大きい子ばかりで、私は「ああ、私の仲間はいないんだな……」と感じていた。だが、ある晩のこと、私は自分の体に異変を感じた。なんと、お腹の下の方(つまり股間のあたり)に何か温かいものがあるように思えたのである。不思議に思いそこに触れると「何やコレ!?」と思い、急いでトイレへ直行した。「うわぁ~……」

そこには大量の液体があった。「これはもしかしておしっこなの?」そう、私はおもらししたのである。どう考えても「スーパー銭湯に行きたい」という欲求から起きた現象ではなかった。なぜなら、お風呂に入りたいとは思ったけど、おもらししてもいいとは思ってなかったからだ。そこで私は、この事態の原因を調べることにした。
ネットで調べてみると「思春期」がキーワードになっているようだった。思春期というのは身体が大人になろうとしている時期のことであり、それに伴い女性ホルモンの量が増加していくのだという。その増加分は個人差があり、それによって性器が変化を起こし、さらに胸が大きくなったりするというのだ。「なんてこった……。私はこれから一生タオルなしでお風呂に入らないといけないのか……。はぁ、最悪だぜ」私は肩を落とし、深いため息をついたのであった。「今日こそスーパー銭湯に行ってやる!」という気合を入れて出かけたはずなのに、またしても「タオルなしのお湯に入るのが怖い」「みんなの前で脱ぐことができない」などと考えてしまい結局、いつものようにサウナやジャグジーばかり楽しんでしまった。まあ、たまにはこんな日があっても悪くないだろう。
「もう二度と来ないけどね!」 

私はゲームが大好きで、特にファンタジーRPGが好きである。最近プレイしたのは「ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君」(通称ドラクエ8)だ。ストーリーはもちろん面白いのだが、何より魅力的なのがキャラクターたちだった。勇者や賢者などのメインキャラクターはもちろんなのだが、村人たちの表情がとても良かった。村人の中には顔にあざを作った者や、頭に包帯を巻いている者、腕をギプスで固定している者、足を骨折して松葉杖をついている者もいた。そして、そういった怪我を負った者は主人公を慕ってくれるようになるのである。
私は最初、これらのキャラクターは「仲間キャラなのでは?」と考えていたのだ。主人公が傷つき、心と体を癒す場所が冒険の目的だと考えたのである。しかし、それは違った。彼らの多くは盗賊に襲われてしまった村の人間であり、主人公の優しさにふれて心を入れ替えるのだ。つまり、この物語は「善良で無垢な村人たちを盗賊から救うことが主人公たちの旅の主な目的である」ということになる。これは実に斬新だった。というのも、ほとんどのロールプレイングゲームは悪人が悪事を行ってしまうパターンが多いのに対し、この物語では最初から「主人公は悪い奴らと戦うために旅をしているんだ!」という設定になっており、そのため正義のヒーローのような気持ちでプレイすることができたからである。

また、このゲームのすごいところはグラフィックがキレイだということだ。ドット絵ではない。しかも動きも滑らかだし音も良い。私は「ドラクエシリーズって、本当にすごい技術を持っているんだな」と感動したものである。もし興味を持った方は是非とも買ってほしいと思う。きっと満足できるだろう。私のゲームの中で一番好きなキャラクターは「魔法使いの女の子」なのだが、その子はとにかくかわいい。今でも覚えているほど可愛いのである。名前は忘れてしまったけれど。その女の子に会うために「ドラクエ」はやっているといっても過言ではない。そしてその可愛らしい姿とは裏腹に、彼女の攻撃力はとても高い。敵を一網打尽にする攻撃魔法を次々繰り出してくる。私は彼女に出会うまで他の子のことを知らなかったが、今では「あれは絶対、ラスボスだよ……」と確信している。それほどの強敵なのだ。ちなみに「ラスボスはやっぱり強かった!」という感想を持つ方もいると思うが、私の経験からいうと「普通に強いだけ」だと思う。

なぜなら私は「レベルを上げすぎる癖がある」からだ。つまり、ゲームの中盤ぐらいまでは「ひたすらレベルアップ」をしてステータスをあげることに夢中になってしまうのである。だから終盤になってもまだ「強くなってやる!」と思ってしまい、結果的に倒せないということはない。ただ、私は油断しがちなので「あの時は頑張ったのに今回は負けちゃった……」ということがよくあった。そういう時に限ってラスボスが出てくるのだ。しかし、「今回も頑張れば勝てるはずだ」と信じていたので、あまり落ち込むことはなかった。むしろ嬉しかったくらいである。しかし、「レベル上げをしすぎたおかげで、なかなかレベルが上がらない」という状況になるとさすがに辛いものがあった。だってそうだろう。あともう少しで倒すことができると思っていたのに、急に倒せなくなってしまうわけだ。その瞬間、私は「うわ~!もう嫌になったぜ」と叫んでいたものだ。

まあ、そんな経験もあって、最近ではなるべく慎重にプレイするようになっているのだが。でも、こういうプレイスタイルが自分に合っているような気がして最近は楽しい。

私は今、とあるオンラインゲームをプレイしている。その名も「マビノギ」というファンタジーMMORPGである。このゲームは北欧神話をモチーフにした世界を舞台にしており、その世界観の素晴らしさに心を奪われたプレイヤーは多いのではないだろうか。まず第一に挙げられるのは美麗な3Dモデリングであろう。まるで現実にいるかのようなグラフィックで、ゲームをやっていて違和感がないどころか「これ、ほんとにゲームの世界なんですか?」と言いたくなるほどである。次に魅力なのは音楽とイベントの多さである。ゲーム内で流れている音楽は全部で30万曲近くあり、イベントの数は数え切れないほどあるのだ。さらに「結婚システム」や「ペット」、チャットなどのコミュニケーション機能も充実していて飽きることがなく、プレイしていてとても楽しめた。
私はこのゲームを始めた頃、かなりハマってしまい1日でレベルをMAX(カンスト)にしてしまったほどだ。その後狂った社交界で遊ぶのに夢中だったのだが、しばらくしてから新しい刺激を求めてファンタジーの島に行ってみた。そしてそこで出会ったのが「コリー」という女性キャラだった。コリーはとてもかわいらしく、いつもニコニコしている明るい性格の持ち主である。狂った社交界にも「おーい!」と呼びかけられるほどの有名人だったので、私もコニーマリーのことを知りたいと思った。だが、なかなか会うことができず困っていた時に、たまたま「フレンド登録リスト」に名前が表示されていることに気がついたのだ。それをきっかけに私は彼女と仲良くなり、一緒に遊びながら冒険することになったのである。

引き伸ばされた身体から放たれる弓矢にはどんな敵をも打ち破る力があったし、回復魔法を使えばあっという間に傷口は塞がってしまった。彼女の強さに驚きながらも、私はすぐに「この人は私が守らなくていいんじゃないか?」と考え始めた。見開きでおっぱい3つティッツ・リデルズ・アンド・ザッハート・コニーマリー、この人が私を守ってくれるのである。そう考えるだけで興奮してきた。

しかし、コリーは私が考えていた以上に強い人だった。「私と一緒にいると、あなたが危ないわよ」と警告してくれる優しさを持ちつつも、時間は過去から未来に進むのでなく(だけでなく?)現在に戻るものであると理解していたのである。「彼女は強い人なんだ」と感じた私は何も言えず黙り込んでしまったのだ。すると彼女が私に向かって言った。「どうしたの?大丈夫?」心配してくれていたのである。

私は自分の無能さを恥じたものだ。ジェレミーべレミー。「もし時間を巻き戻せるなら、俺はお前を救ってやる」という言葉を思い出したのである。このセリフはすごく印象的だと思う。だってそうだろ。自分が一番助けてほしかった人に助けを求めることができなかったんだから。しかも、それが大切な人であればなおさらだろう。でも、今は後悔していない。

だってコリーに出会えて本当に良かったと思っているんだから。そして彼女に出会えたことで、私は人生観が変わったのだから。だから感謝の気持ちでいっぱいなのである。そしてこれからもずっと彼女の隣にいたいと思う。たとえ彼女が「自分は必要ない」伝説の、語られなかった物語たちを語るということー語られていなかった過去を語るということでもあり、時間が現在から過去へ過去からまた未来へぐるぐるとまわりながら進んでいく、我々がふだん考えている時間の流れ方ではない流れを教えるということなのだとしても……
それでも私は彼女を手離すことはできないと思うのである。

ちなみに余談ではあるが、私は最近になって「コリー」という名前の女性に出会った。最初は気付かなかったが「あのコリーか!?」と思って確認したらやっぱり本人であった。私は感激して話しかけた。すると彼女も喜んでくれて「私のことを覚えてくれているなんて嬉しいわ!」と言っていたのだ。私はそんな風に言ってもらえることが嬉しくって、ますます感動してしまい思わず泣いてしまいそうになった。なぜなら「コリー」という存在はゲームの中でしか存在しないと思っていたからだ。私はその時、こんなことを考えていた。

(ゲームの中のコリーは、現実の世界にはいない。でも現実世界で私が出会っていたかもしれない女性だ…………ゲームのコリーを愛していたのではなく、現実で出会ったコリーを好きになっただけなのかもな。バットマン、スター・ウォーズ、ドラえもんみたいなもんだよ)そう考えると「私はいったい誰を想っているのか?」という疑問が沸き起こってきたのだ。そこで私はこう考えることにした。(ああ!きっと現実で出会ったコリーはゲームの中に出てくるキャラクターに似ていたのね!それで好きになっちゃったんだ!)と……。

つまりはそういうことだったのだ。そんな感じで納得することにしたのである。

でも、それは間違いだった。現実では「あのコリーの人かな?」という感覚で声をかけただけだったのだが、実際にゲームの中と同じ人だったのである。これは運命としか言いようがない。まさに「出会い」とは奇跡の連続なのだ。そう思うと胸が熱くなってきた。その人と出会わせてくれた運命に感謝しているのだ。そして、その女性は私のことを「あなたのおかげで私は変わることができたのよ」と、時間の流れ方について、溶け出す時計について教えてくれた人だと感謝してくれたのである。

それから私は「コリーと別れなければならない時が来たら?」という不安にかられたが、すぐにその考えを打ち消した。
「彼女は絶対に自分を見捨てたりしない」と信じることができるからである。それに「私はあなたが必要なの」と言ってくれたこともある。

しかし、「コリーを愛せば愛するほど、彼女のためを思えばこそ離れるべきではないか」という思いもあった。私はこの矛盾する二つの思いを抱えて悩んでいたのだが、ある日を境に私は決心することができたのだ。理由を説明する前に、秘密が何か、その中身を知る者がいたとしたら、この人は「何でわかったの!?」と思うに違いない。なぜなら私がこの事実を知ったのは「偶然だった」からなのである。

私は、ある時にたまたまコリーに聞いたことがあった。「どうして君は、いつも悲しそうな顔をしているの?」

何も傷つけない 
正しい言葉を選ぶ

見つけるのは難しいけれど、私は詩のように彼女の力になりたいと思った。この詩を書いたのは誰だろうか。私は知らない。だけど素晴らしいと心の底から思った。私もこんな言葉が言える人間になりたかったのである。
私は勇気を出して聞いてみた。あまりにも寿命が伸びてしまったら彼女はどんな人生を送ることになるのだろう、と疑問を抱いたのである。すると彼女は、少し困った表情を浮かべながら私に向かって言った。「この世界にはね、私みたいに時間を引き延ばされている人が他にもいるのよ」と。「どういうこと?」と私は驚いた…………

続く

バッファローマッキーというのは、いつも最下位の、倍率が1万倍の穴馬です

一日のうち22時間もの間、コアラは眠っているという。
夢の世界が存在するために、眠ることで、彼らコアラが夢を造っているのではないか。あるいはこの現実が、コアラが夢みている世界なのかもしれない。
無数の制作物が生まれ、もはやそれらは一人の人間が一生かけても味わい尽くせない量を超えているという。
いまわたしたちが作り出し続けているものたちは、未来の人たちへ向けられているのだろうか。

ーあらゆる労働から開放された、人間たちへー

それとも、呼吸をする必要があるように、労働とは必要不可欠なものなのだろうか。

人は夢を見なくなった時に死ぬ。
わたしたちにはいつも物語が必要で、物語は待ち望み、わたしたちに問いかけている。

わたしが一体どんなふうな冒険をしてバッファローマッキーに出会ったかを語りましょう。まずバッファローマッキーというのは、いつも最下位の、倍率が1万倍の穴馬です。あの馬にお金をかけてみようなんて人がいたら、周囲の人はそれを聞いて、そんな愚かなすべてを棒に振ってしまってスッカラカンになってしまうような真似はやめておきなさいと忠告するでしょう。

ある一部の人は効率を、素早い結果を求めますので、できるだけ少ない回数で大きな仕事を得るようにしますし、それがその人を大きく見せることがわかっているので、穴馬など労あって益なし。
愚かな行いをするにはこの短い一生では足りないとばかりに、まっすぐ正攻法で大通りを規則正しく、はるか先のローマまで目一杯突き進みます。ですのでわたしがバッファローマッキーに賭けるという考えは、正真正銘の博打狂い、輪廻の回転狂いくらい、例え上手くいったとしても自分にとって一番大切なものを代わりに失う絶対に誰からも褒められた行為ではないと、隣の芝生と乾いた布団とを比べてみた場合には一目瞭然の明白な未来だと、わたしがそういう考えを抱きはじめたときに嗜められたものでした。

この人を見よ、君は君自身のラーメンを作りなさいと言われましたが、その時わたしはラーメンなら具材にガビョウを入れたってなんだって構わないと、そのいきなりの諭し加減に帽子をとることもしませんでしたし、背中に大きく宇宙旅行と刻んだ永遠の少年からは、きみの素晴らしい日々には歌いかけている相手の姿が描かれていないよと、よくわからない決めつけた指摘も受けたものでした。

つまりわたしはとても生意気でしたし、額のうえに凡人の凡と書かれた席に座っていると主張する飲んだくれには上下逆さまの絵を描いているように見えていたのです。

それでも幾年も経ってもまだ中古船にいて、ハズレくじや捨て駒をかき集めれば一体に変えることができるという考えを拭うことができていなかったわたしは、その日もまた窓際に置いた手術台の上で、自分が見つけようとしているものの正体などわからないままで、最初に呼び出せたのはキャンキャンと吠えるスコッチプードルという小さな犬だったのです。
上手くいったのは初めてでしたので、パイナップルのような甘い薬品の香りがしたことを覚えています。ですがなんだか弱々しく心許なく、いくらわたしがドンジャラしか知らないといっても翌日には考えを改めていました。パイナップルは無しにして、それから、次の日にはわたしはバッファローマッキーにすんなり乗ってしまって、あの通りの神秘と憂愁を手に、そのまま走り出してしまったのでした。

終わり

ストームトルーパーは、いる

針が喉に食い込むjpegな朝

かた子「ああっ!お兄ちゃんまた駄文書いてたのね!」
お兄ちゃん(うげっ、妹に見つかっちまったぜ……くそー、何だよこのクソゲー。何で妹の奴、攻略サイトにも載ってねえ情報を掴んでるんだよ)
カタ「もう!こんなくだらない小説書いてないで勉強してよね!まぁ〜た手癖でエクスペリメンタルしてたんでしょ!そんなのクソサブカルしぐさだよ!だけどサブカルかどうかなんて自己申告だろうから、お兄ちゃんはただのクソ、いいえクソ以下だわ。見せてみなさいよ自分の姿を。かたちを。ま、いいわ!うーん……なんかね、今度の曲はね、すごくポップでキュートな曲なんだって!』
妹は俺が差し出したスマホを覗き込むと、「あっこれ知ってる」と言い、そのまま勝手に曲を聴き始めた。

拾った日記に〜値段つけて売る〜♪そんな歌詞を口ずさみながら……
まるでどこかにいてそうな野郎の話のような気がしたが……

ーお兄ちゃんの日記ー
『あ、あのねっ…………』
はてさて……この子は何を考えているんでしょうかねー?(棒読み)
(うふ、ウフフ……。な、何か言い訳を考えておいた方が良いわよね!そ、そうよっ!!この前だって私のこと『変態の権化!』とかいいながら襲い掛かってきたじゃない!まぁ私がそれを撃退して逆に返り討ちにしてやったんだけど!!!)
(あはは〜この前のことなんて記憶にも無いわ〜!!ま〜た私のことからかったって言うのかしら〜?)
『えぇっと……この前にも同じようなやり取りしたわね……』
はははー。そうですね!もう完全にからかいました!!(爽やかな笑顔で即レス)
『そろそろ私帰るからね?』
はい。じゃあお元気に帰って下さいまし!!

〜翌日〜……あれ、ここは何処だろう?
『ねぇここって学校よね?……どうして私は寝ているの!?それになんだか体中がズキズキ痛むし!』
はは。ごめんよ。俺、君の事が心配過ぎてついやり過ぎてしまったんだ(真顔&さわやかボイス&ドヤ顔&親指立てながら)。

反省はしているけど後悔は全くしていないぞ!!……でもね。俺は今すごく幸せです!!!こんなにも美少女と密着できるだなんて……。ぐへへへ。(キモオタキモイ。キメェ死すべし(・ ́-• 3分後……(やめてぇ!!まだ息あるんだってばああ!!!!!(マジトーンで叫ばれました)

はは、冗談はさておくとしてもさ……。
昨日君は俺のことを散々弄びましたからね?少しお仕置きしてあげます☆……ふふん。これでまた君に近づく理由が出来てしまったようだ……。覚悟するんだぞ!
「え……なにこれ……」

☆あとがき……なんでしょうか。今回の話は……?何とも言えない気持ちになります。自分で書いといてなんですがこれ絶対誰か読んでないでしょ。うん。という訳で……皆さま、これからも良い小説を書き続けていきましょうね!!では、さらばじゃ。

by主
皆さんこんにちはー!!(いつもよりテンション高く登場。多めの登場の仕方)
今回はなんと!新キャラが登場しますぜい!!!しかも、超人気キャラ!!!……うむう。これはどうすれば良いんだろうか(困惑 あ、あと!新展開に突入しますよ!!……では、早速どーぞーっ☆((ドンッ! !!!))

はい。ということでですね。読者の皆さんはご存知かと思いますがこの方は主人公くんの元カノさんなのです。名前は内原優奈と言いましてですねー。
えぇっと……はい……。こほん!この物語は一応元恋人同士ですが主人公はその事を記憶から忘れておりました(という設定)。そしてある日主人公のことをストーカーしている内にだんだん好きになっていったというお話となっております☆

(※作者からのコメント欄にはこの物語の裏ストーリー的なものが書かれているため興味のある人は見てみるといいですよっ☆((キショイッ! あ、はい!ではそろそろこの人の過去について触れていきましょぉうか!!!……彼女は昔、それはもぅ大金持ちの家でしたのですよ!親が有名な科学者だったのでね。だから彼女の周りはとても賑やかというか……。常に人がたくさんいましたねぇ……。

で!そんなある日。突然両親が事故死してしまったんですよ。……はい、そうなのです!!!その時の主人公の様子はもう言葉に出来ないほどの悲しみに包まれていたそうですよ!……そりゃぁそうでしょう。いきなり目の前にいる大事な人を失ってしまうとか想像できないですよ普通!!それに加えて、周りの環境の変化もあったんでしょうね〜……。彼女は一人になってしまい孤独になってしまったのです!それで色々あった末に主人公と出会う事になったってことですね!はい!分かりましたでしょうか?……ん。よく分かったと言う方はこの下に答えが載っていますからねー。それを確認しておいてください。

☆コメント……はいはいー?なるほどですわ。
↑ ↑ なんかすごいことになってきたなー あー。そういうことですわ ↑ ……ふぇえぇ!?どゆこと!?ちょ!!どういう事よ!!説明をしろ!!!
(※ちなみにこれはこの人のコメントの一部を切り取った物であり本人ではないから注意な)

お?この反応……まさかあなた、読者様の癖に見ちゃったりした?……はいはい。ネタバレ禁止ー!!!(えー、良いじゃありませんか?少し位なら♡ ダメよ。絶対に!!……ったく……
『ふ、ふーん?な、何か私凄いこと言っちゃってるじゃない……。ふふっ』

あ、はい……では次の質問に移りますよ〜。……まず初めにですね、なんといっても容姿の良さが目立つんですよ!この方!!!そして次に……めっちゃスタイルがエロいですわ。……以上(真顔&ドヤ顔)。
は、ちょっと!?……そ、そんなこと言ったって別に嬉しくないんだから!!ほら早く進めて頂戴っ!!! はぁい!……じゃあとりあえず名前だけ決めとこうかな……えっと。

………
カタ「予想をはるかにこえるキモさね!」
お兄ちゃん「う、うーるさい、かた子の日記も見せろやい!!」

僕と姉さんがじゃれ合っていると、「あら? 私の話?」とおっとりとした声と共に、かた子が居間に入ってきた。
そして彼女は僕らを見るなり「ふぅ」と溜め息をつく。
お兄ちゃん「あれ……かた…子???」

続く



シュガーパイ 一の巻

吾輩はstt蜂蜜酩酊楽団である。名前はまだない。
「いや、だからね。……あーもう、仕方ないな」
彼女は頭を抱えながら、何かを呟くと、僕の手を引いて歩き出す。
その瞬間、僕は彼女の手に光る指輪に気がついた。
──ああ、そういえば、彼女は……stt蜂蜜酩酊楽団のメンバー、マッドハニ子こと、sttだったんだ。
今更思い出しても遅いけれど、そんなことを思いつつ、僕は彼女に引っ張られて歩くのであった。

***
連れてこられたのは、音楽ホールの控え室みたいなところだった。
そこには、様々な楽器が置いてある。
そして、sttは僕を見て言った。
「君さ、歌える?」
「えっ? まぁ……」
「じゃあ歌ってみてよ」
そう言われて、僕は戸惑いながらも、歌い始める。
すると、彼女はそれに合わせて伴奏を始めた。
まるで、蜂蜜みたいだと思った。甘くて優しい歌声で、思わず聴き入ってしまうような、そんな感じ。
曲が終わり、彼女が拍手をする。
「へぇ、すごいじゃん!」
「あ、ありがとうございます……」
「うん、採用! 今日から君はsttハニーだよ!!」
「……はい!?」
sttの言葉に驚く僕。
「だって、君、声綺麗だし、何より曲も歌詞もいいし、いいよね、sttハニーって」
「いや、あの、でも、sttハニーって……それはちょっと恥ずかしいと言ますかなんと言いますか……」
「大丈夫、みんなあだ名とか、そういうの好きだから」
「うぅ……分かりました。よろしくお願いします、sttさん」
「はい、こちらこそ。ちなみに、私はsttハニーじゃないからね」
「えっと……どういう意味ですか?」
「私は、sttシュガーだよ」
「あっ、そうなんですね」
こうして、僕はsttハニーになったのだ。
「お疲れ様です、sttハニーさん!」
「あ、どうも、sttシュガーさん」
「今日のライブ良かったですよ~!」
「ありがとうございます!」
ライブ終了後、楽屋に行くと、色んな人に話しかけられる。
正直、慣れないけど、嫌ではない。
「sttハニーちゃん、この後打ち上げ行くんだけど一緒に行かない?」
「えっ? いや、でも、私未成年なので……」
「えー、せっかくだし行こうよぉ~」
「いえ、本当にすみません……。ほら、早く帰らないと親が心配するんで……」

本当は帰りたくないけど、とりあえず嘘をつくことにした。
この世界に来てから、僕は嘘つきになってしまったようだ。
「そっかぁ~、残念。また機会があったら来てねぇ~。こねえと蜂を襲わせちゃうよ?なんてね!あはは〜あは」
「は、はい、わかりました……」
その人の言葉に苦笑いを浮かべながら、部屋を出る。
外に出ると、空には星が輝いていた。
──ああ、前の業界ではこんな風に夜空を見ることもなかったな。
そう思うと、少しだけ寂しい気持ちになるかも。僕はふと、あることを思い出す。
──そういえば、sttシュガーさんの家に行ってみようかな。
そんなことを考えていた時だった。
「あれれぇ〜? sttハニーちゃんじゃなぁい? 何してるのぉ?」
突然、後ろから声を掛けられ振り向くと、そこには派手な化粧をした女性が立っていた。
「あ、あなたは……?」
「あら、アタシのこと忘れたのかしらぁ? ひっどぉーい! これでも昔は人気だったのよぉ〜」
そう言いつつ、彼女は僕に近づくと、いきなり腕を掴んだ。
「ひゃっ!? な、何を……」
「いいから来なさい。sttハニーちゃん」
そう言って、彼女は僕を引っ張っていく。……ああ、やっぱりこうなるんだ。
僕は心の中で呟いた。

***
連れてこられた先は、とあるビルの一室。
そこは薄暗くて、なんだか怪しい雰囲気だ。
そして、彼女は僕を見ると言った。
「久しぶりねぇ、sttハニーちゃん。元気にしてたかしら?」
「あ、はい……」
「そう、ならよかったわ。じゃあ、早速だけど……」
そう言うと、彼女は僕に向かって手を伸ばす。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
僕は慌てて彼女の手を払い除けて言った。
「あの、sttハニーっていう名前は、芸名というか、なんといいますか……」
「あら、そうなの? てっきり本名だと思ってたわ」
「本名はもっと地味な名前で……」
僕がそう言うと、彼女はニヤリとして言った。
「へぇ、じゃあ教えてちょうだいよ。あんたがどんな名前なのかさ。まぁ、偽名でもなんでもいいけどね」
「……あーもう!! 分かったよ!!」
僕は半ばヤケクソになりながら叫ぶように答えた。
すると、彼女は満足したような表情を浮かべる。
「ふーん、sttハニー、ねぇ……。じゃあさ、sttシュガーって知ってるかしら?」
「えっと……確か佐藤敬市とか、近頃は偽名を使うみたいで…本名は知らないです」
「へぇ、詳しいじゃない。で、そのsttシュガーはどうなったと思う?」
「どうって……」
僕はそこでハッとする。
そうだ、確かにsttシュガーは今、行方不明になっていたはず。
「まさか……あなたが……?」
「ご名答。アタシがsttシュガーよ」
彼女は不敵な笑みを浮かべて答える。
「それで……一体僕になんの用なんですか……」
「あら、察しが悪いわねぇ。……アンタにアタシたちの仲間になって欲しいのよ」
「それは……つまり、sttシュガークローンになれということですか?」
「いいえ、違うわ」
「じゃあ、どういうことですか」
僕の問いに、sttシュガーさんはしばらく黙り込む。
「……アンタは、アタシたちの仲間にはなれない。でも、アタシたちがアンタを救ってあげることはできる」
「えっと、それって……」
「……sttシュガー、この名前の意味がわかるかしら?」
「えっ? 意味……」
「そう、このsttというのは、砂糖を意味する英語よ。英語で砂糖といえばシュガー。だから、この名は、甘いものを好む人間という意味を持っているのよ」
彼女は、僕をまっすぐに見つめて、ゆっくりと口を開いた。
「アタシたちは、その名の通り、甘くて美味しい蜜をみんなに提供する存在よ。その甘さに、人は虜になる。でもね、それだけだといずれ飽きられる。だってそうでしょう? 同じ味ばかり食べていれば、そりゃ飽きもくるわ。それに、一度食べたら二度と忘れられないほどの甘味を提供できなければ、アタシたちの存在は消えてしまう。そんなことにはなりたくないわよね?」
「そ、それは……」
「そこで、アタシの出番なの。アタシの能力を使えば、誰もが夢中になるほど素晴らしいスイーツを作ることができるわ。もちろん、アンタにも協力して貰うけど。……どうかしら?」
そう言って、彼女は再び僕に手を伸ばしてくる。
──正直、僕には彼女の言っていることがよくわからなかった。

続く

突然の時代

ノルマとは、ロシア語が語源で「強制的にやらなければいけないもの」という意味だそうです。つまり、このノルマを達成できなければ「お前はやる気がないのか!」と怒られるわけですね。
まぁ、この辺の話はまた別の機会に詳しく話すとして……。
まずはノルマについてざっくりと説明しました。
続いてノルマをこなせなかった場合のペナルティーを説明します。
まず、上司から叱責されるでしょう。これは誰でも想像できると思います。
そして、会社によっては始末書を書かされたり減給になったりするかもしれません。
さらに始末書を提出したにもかかわらず、それでもなおノルマ達成ができなかった場合には、解雇という選択肢もあるはずです。では、もしノルマを達成した場合はどうなるでしょうか? それは次回以降に書きたいと思います。
最後に……
今回の記事はいかがだったでしょうか? 少しは皆さんのお役に立てれば幸いなのですが(^-)-☆ さて次回も前回に引き続きノルマに関するお話です。 「ノルマを達成するために」と題してお送りします。 ※今回の内容は2017年11月5日に執筆したものです。そのため現在の状況と異なる場合がありますので予めご了承くださいませm(_)m そもそもノルマって何だろう? ノルマという言葉を聞いて、皆さんは何をイメージするでしょうか? おそらく大半の方はこう答えるはずです。
・ノルマ=仕事上の目標
・ノルマ=会社の決めた厳しい条件 ノルマとはすなわち「会社が社員に与える課題」です。
言い換えるなら「社員の成長を促すためのもの」とも言えますね。
例えば営業職の場合、新規顧客を獲得することが求められていますよね。だからといって何も考えずに闇雲に訪問しても顧客を獲得できないし、売上にも繋がりません。
そこで営業担当の社員には「月に100件の受注を目指して頑張ろう!」みたいな感じでノルマが課せられていることが多いわけですが、ざけんじゃねえよと。

部屋のなかで笑う蠱惑的なラナンキュラス。

僕はこの花が好きだ。
彼女は、僕の部屋でいつも笑ってくれる。
彼女の笑顔を見ると心が安らぐ。
彼女の名前は『胡蝶蘭』。
その名の通り、まるで蝶々のように可憐で美しい。
そんな彼女を見つめながら僕は今日も彼女に話しかけた。「おはよう胡蝶蘭さん。今朝も良い天気だよ」
僕が挨拶すると、胡蝶蘭は優しい笑みを浮かべてくれた。
そして、嬉しそうな声色で返事してくれた。
「あら、おはようございます。あなた様」
彼女が微笑むたびに、部屋の空気が変わる気がする。
とても心地が良い。
「今日も綺麗だね胡蝶蘭さん」
「ありがとうございます。嬉しいですわ」
胡蝶蘭は本当に可愛い。
その言葉を聞くだけで幸せになれる。
だけど……一つだけ不満があるんだ。
それは、胡蝶蘭さんの本当の名前を教えてもらえないことだ。
彼女は自分のことを『胡蝶蘭』と名乗っているけど、本当の名前じゃないことは知っている。
きっと何か事情があって偽名を使っているに違いないと思うんだけど……。
「胡蝶蘭さん。どうして君は本名を隠してるの?」
「ふふっ、秘密です。」

はぐらかし 肩透かし
臭みを消された音たちが、 軽やかなリズムに乗って流れていく。
それはまるで音楽のような……いや、音楽は楽器によって作られるのだから、 それこそ。。。

だが、今私の耳元で囁くように流れているこの音色たちは、 決して曲と呼べるような代物ではないのだ。そう、これはただの音である。
メロディもコードもない、 ただ音が鳴り響いているだけの、それだけのものだ。
しかしそれが何故か私にとっては妙に心地よくて、 いつまでもこうして聞いていたくなる。
まるで音楽のよう……ではなく、 私は実際に音楽を奏でていたのだった。
「……あれ?ここは……」
気が付くとそこは見知らぬ場所であった。
辺り一面真っ白な空間が広がっているばかりで他には何もない。

「お目覚めになりましたか」
唐突に声をかけられ振り返るとそこには見覚えのある少女の姿があった。
「ああ……君か。久しぶりだね」
目の前の少女はかつて私が所属していた組織に所属していた研究者であり、 私の上司にあたる人物でもある。
「お久しぶりです」
「うん。それで……ここは一体どこなんだい?それに何故君がここに?まさかあの時みたいにまた実験台にするんじゃないだろうね?」
「ノルマがございますので…」
「ノルマ?なんだいそれは……ってちょっと待った!その手に持ってる物はなんだよ!?」
「はい。貴方のノルマです」
「ふざけん……うわぁああっ!」
私の悲鳴と同時に私の身体がバラバラになって宙を舞っていた。
「……痛ぅ……なんだい今のは……」
「ノルマを達成しましたので次のノルマを与えさせていただきます」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。いきなり何するのさ。いくらなんでもあんまりじゃないか」
「ノルマが達成されない場合、ノルマはどんどん増えていきますのでご注意ください」
「そんな無茶苦茶なこと言わないでくれよ」
「ノルマを達成すれば良いのです。簡単なことです」
「簡単に言うなってば。大体なんでこんな目に遭わなくちゃいけないんだ。僕が何をしたっていうんだ」
「ノルマがありますので……」
「だーかーらーノルマノルマってうるさいな。もういい加減にしてくれないかな」
「ノルマが……」
「ああわかった。じゃあこうしよう。僕はこれから君のノルマを達成するために全力を尽くす。
その代わり…
いや、音楽をやっています、と人に話すと「自己表現がしたいんですね」と解釈されることに自分は違和感があって、そうではなくて何かを作りたいんだっていう、その違いは胡蝶蘭さんにはありますか?
自己表現と言うと自分の考えや感情を吐き出すような印象なんですが、何かを作りたいっていうその「何か」には自分の考えだけではない、他人の考えも含む、環境や状況であったりすると思うのですがいかがでしょうか?」
「ふむふむ」
「胡蝶蘭さんはどう思います?」
「難しい質問ですわね。でも、確かにそういう考え方もできるかもしれませんわ。あなた様の考え方も素敵ですけど、私もどちらかというとその方がしっくりきますわね。あなた様の仰っている通り、自分ひとりだけではなく、他の方の意見も含んでいると考えると、より幅広い意見が聞けますし、そこから自分が作りたいものを見つけられる可能性も高まるのではないかしらと思いますわ」
「なるほど。ありがとうございます。参考になりました」
「いえ、こちらこそ勉強になりました」
胡蝶蘭の言葉遣いがなぜか突然荒くなる。
突然の時代だ。

「ま、まずはクラシックとか、定番だろ?あとは童謡、唱歌、校歌、国歌、それから演歌、民謡、歌謡曲、、」
「え…あらまあ…」
「え、、まさかの、、?」
「小さい頃からテレビで触れてきたコンテンツを配信で見直せる、続きが見られる、特殊な世代のノスタルジー感があるんだと思うんだよね……胡蝶蘭さん?」
「えっ、あ、はい!そうですわね。きっとそうだと思いますわ」
「?胡蝶蘭さんの好きな音楽はなんですか?教えてください」
「私は特にありませんわ。音楽全般が好きですけれど、強いて言えば、ジャズピアノが一番好きかしら」
「ジャズ…ズージャですかい」
「え、、ズズーですの?」
「あ、、いや、、なんか、、聞いたことがあるような気がして」
「そうですの?私の知っているものと違うのかしら」
「さて、今日も一日頑張ろうっと……」

「おはようございますあなた様」

どれくらい話せば生きていけるのか。
言葉を愛とする者たち。

「言葉とは魂の叫びである」
この言葉の意味が分かるだろうか。
「言葉は人の心を動かすものである」
この意味が理解できるだろうか。
「言葉は人を救うものである」
この意味を理解できているだろうか。
「言葉は人の心を豊かにするものである」

ギザギザのファズギターvs言祝ぐ

スターマンは星へ還っていった。

星の王子さまは死んだ。

彼の死と共に、彼を知るものはいなくなった。

彼が何を想い、何を考えていたのか、誰も知らない。

彼は一体何者だったのだろう。

そんな疑問を抱きながら、私は生きている。

「……あの、お嬢さん。今お時間よろしいでしょうか?」
「……ん?なんだい?アタシに何か用?」
「はい。少しお話ししたいことがありまして。お時間をいただけないでしょうか?」
「いいぜ、なんでも聞いてくれ。答えられることなら答えてやるよ」
「……では、単刀直入に。「未来少年コナン」的な世界の中で競われる「F-ZERO」的なレースの音って…?」
「…………え?なにそれ?」
「……ですよねぇ……」
「なんだよいきなり。何言ってんだよアンタ」
「すみません。なんでもないです」
「……?変なヤツだな。まあいいか。とりあえずメシ食おうぜ。腹減った」
「あ、はい。行きましょうか」
「今日はどこ行くんだ?」
「今日はラーメン屋さんに行きたい気分なんですが、ご一緒していただいてもよろしいですか?」
「もちろんだぜ!」
「いらっしゃいませー」
突然の時代である。

「……う。胡蝶蘭さん。けっきょくミシン台の上で蝙蝠傘とナントカがであって、それでどうなったんでしたっけ?ノルマ抜きで、実際のとこ。」
「え?えーと……そうですわね……確か、ナントカは胡蝶蘭をナンパしようとしていたのですわ。そこにミシンさんが現れて、そして二人でどこかに行ってしまいましたの。だから胡蝶蘭は一人で家に帰ったと思いますわ」
「そうでしたっけ。ありがとうございます。じゃあ、僕たちはこれから一緒に出かけることになりました。胡蝶蘭さんはどちらがいいですか?」
「あらまあ。私もお供してもよろしくて?」
「ええ、もちろん。むしろこちらからお願いします」
「あら、かしこまりました。」
「ところでこのテクストに意味はありるんですか?」
「いえ、特にはないと思いますわ」
「え?ないんですか?あ、でも確かによく考えると意味なんてありませんよね。小説として成立しているかどうかも怪しいですし」
「ええ、その通りですわ。しかし、もし仮に意味があるとしたら、それはあなた様の物語ですわ」
「僕の物語ですか」
「ええ、きっと」
「ふぅ……。もうこんな時間か」
「あら、そろそろお休みの時間ですわね」
「ええ。胡蝶蘭さんはまだ起きていますか?」
「ええ。まだしばらく起きているつもりですわ」
「では、また明日会いましょう」
「ええ。おやすみなさい」

to be continued…

Sekiguchi SatoruのSTACTEによせて

ついにセキグチサトルの4枚組CDセットが自主レーベル”STACTE”よりリリースされた。この自主レーベルは、デビュー前にレコード会社に頼んで作ってもらったものである。しかし、デビュー後はその権利を事務所から買い取り、今に至るまでずっと続けている。これは彼のこだわりでもあったし、事務所も文句は言えなかったのだ。
「いやあ、これでまた、音楽界で僕の名前が知れ渡っていくな」
「そうですね……」
「もうすぐ日本にも来るよ! やったね!」
セキグチサトルは大喜びだった。
「あの、ところで、セキグチさん」
「なんだい?」
「……さっきの話ですけど、本当なんですか? 本当に、世界中が敵になるんですか?」
「うん、なるよ。僕はそれを狙ってるんだから」
「どうしてそんなことを!?」
「言っただろう? 僕は、世界の全てを手に入れたいんだよ。君には分かるはずだよね?」
「…………」
「どうしたんだい?……ああ、分かった。君は、まだ僕を信じていないんだろう? まあ仕方ない。でも大丈夫だよ。君のことは絶対に裏切らない。これからも仲良くやっていこうじゃないか」
「はい、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく頼むよ」
2人は握手を交わした。
「ところで、セキグチさん。例の、僕を襲った犯人のことなんですけど……」
「ああ、あいつかい。なかなか面白い奴だろ?」
「はい……。あんなことする人なんて、普通いないですよ。一体何者なんでしょう?」
「ふっふっふ、知りたいかい?」
「ええ、もちろんです」
「よし、じゃあ教えてあげよう」
セキグチサトルは楽しげに語り始めた。
「彼は、僕の知り合いでね。名前は、マキタダヨシというんだ。年齢は25歳。今はフリーターをしているらしい」
「マキタダヨシ……。聞いたことのない名前ですね」
「そうだろ? 実は彼、ある事情があって、本名を隠しているんだよ。だから皆からは”マキちゃん”と呼ばれているんだ」
「へー、そうなんですか」
「それでね、彼はちょっと特殊な能力を持っているんだ」
「特殊能力?」
「そう、超能力だよ」
「えぇ!?」
「驚くのはまだ早いよ。彼が持っている能力はそれだけじゃないんだ。例えば……」
その時だった。
突然、窓の外に大きな音が響いた。
「な、なんだ!?」
見ると、そこには巨大な鉄球があった。
そして、そこから1人の男が降りてきた。
「おぉ~、すげえ、マジで来たぞ!!」
男は興奮していた。
「あれ? セキグチさん、あの人は?」
「ああ、彼はね、マキタダヨシっていうんだ。見ての通り、超能力者さ」
「えええ!?」
「いやぁ、まさか本当に来てくれるとは思わなかったよ」
セキグチサトルは嬉しそうだった。
「おい、お前がこの事務所の社長か?」
マキタダヨシが話しかけてくる。
「はい、そうですけど……」
「そうか。俺はお前を殺しに来た」
「殺すって……」
「悪いが死んでもらうぜ」
すると、マキタダヨシの手から何かが出てきた。それは大きな鎌だった。
「うわっ!?」
「おっと、動くんじゃねえぞ? 動いたら死ぬからな」
「くそ、何なんだこいつは……」
社長は恐怖を感じながらも考えた。この興奮はスーパービックリマンが覚醒した時に等しい。しかし、同時に疑問もあった。なぜこんなところにマキタダヨシがいるのか。しかも殺しに来るなんて。
「おい、お前は誰だ?」
社長は尋ねた。
「俺か?……俺は死神だ」
「死神……だと?」
「ああ、そうだ」
「何を言っているんだ……?」
「信じなくてもいいさ。ただ、事実として受け入れてくれればいい」
「……」
「さてと、まずはこの男を殺させてもらおうかな」
「待ってくれ!……僕を殺すなら、その前に聞かせてほしいことがある!」
「ん? 言ってみろ」
「あんたは一体、どこから来たんだ?」
「宇宙さ」
「宇宙……だって?」
「ああ、そうだ。お前たちは知らないだろうが、この世の中には次元というものが存在する。そして、俺達はそこを自由に行き来することができるんだ」
「そんな馬鹿な……信じられない。『ニューエイジミュージックディスクガイド』にも書いてなかったことだ!」
「まあ、そりゃそうだろうな。普通の人間はそんなもの知らん」
「……それで、どうして僕を殺そうとするんだ?」
「決まってるだろう? それが仕事だからさ」
「どういう意味だい……?」
「俺達の仕事は人間をライナーノーツの世界に引きずり込むことにある。そして、そこで死んだ人間の魂を回収して、また次の世界へと送り出すんだ。……これが、俺たちの使命なんだよ」
「そんな……それじゃあまるで……神じゃないか」
「ああ、そうだ。我々は、この世界の神なんだ」
「……」
「レーベル自体が人から人へと継承されていく」というコンセプトのレーベル『Japonica』を立ち上げたセキグチサトルは、その後、様々な自主企画イベントを行い、そのたびに多くのファンを集めた。
特に好評だったのは、毎回違うアーティストを招き、ライブを行うというものだ。
例えば、ある時はテクノバンド・オワリカラを呼んだり、ある時はロックミュージシャンの電気グルーヴを招いた。何より都営大江戸線一本で行き来できる間柄であり、2人はプライベートでも親交があったという。そして、彼らとのライブは大盛況のうちに幕を閉じた。
さらに、彼らの人気が高まるにつれて、他のアーティストのCD化や、グッズの販売などを積極的に行うようになった。こうして、JAPONICALは音楽業界だけでなく、さまざまな方面から注目を集めるようになっていった。
そして、彼らがWOODMANから継承した自主企画の回数は100回を超えた。
ある日のこと、セキグチサトルの元に一通の手紙が届いた。
そこにはこう書かれていた。
『拝啓 秋深まる今日この頃、ますますご活躍のことと存じます。さて、この度は弊社主催のライブイベントへの御参加、誠にありがとうございます。つきましては、日頃の感謝の気持ちを込めてささやかな宴を設けましたので、ぜひお越しくださいませ。なお、当日は関係者各位を招待しております。皆様と楽しいひとときを過ごすことができれば幸いです。敬具 Japonical Records代表 セキグチサトル殿』
手紙には、会場の場所と時刻が記されていた。
「これは驚いたな……。まさか、このような形でお誘いが来るとは」
「ええ、驚きですね」
「どうしようか?」
「もちろん行きましょうよ。せっかくのお招きですし」
「そうだね。じゃあ行こうか」
「はい!!」
2人は早速、指定された場所へと向かった。
そこは新宿三丁目にある小さなバーだった。中に入ると、すでに多くの人が集まっていた。
「おっ、来たな」
「久しぶりだな」
そこには、かつてセキグチサトルとタッグを組んでいた2人の男がいた。
「やあ、キミたち。久しぶりだね」
「ああ、本当に」
「元気だったかい?」
「ああ、問題ない。……ところで、そちらの方は?」
「初めまして、私はセキグチサトルの秘書をしております、ナミヤヒロシと申します」
「そうですか。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく」
「では、皆さん揃ったようなので、そろそろ始めさせていただきたいと思います」
司会役を務める男が言った。
「おっと手羽先君、ちょっと待ってくれないか」
「えっ?」
「実は私から1つ提案があるのだが……」
「何でしょうか?」
「せっかくの機会だし、ここはひとつ、この場にいる全員で乾杯といこうじゃないか」
「えっ!?」
「いやいやAGGY POPさん、さすがにそれはまずいですよ……」
「大丈夫だよ。こういうものは勢いが大事なんだ」
「うーん……わかりました。それでは、今回に限り特別ということで」
「よし、決まりだな!」

「ただし、あまり羽目を外さないように」
「わかっているさ」
「では、グラスを持って……カンパーイ!」
「「「「「「「「「カンパ〜イ!!!」」」」」」」」」
「ふぅ……これでいいのか? ずいぶんあっさりと決まったな」
「ええ、生き方自体が芸術であって、作品はそこからこぼれ出るもの、、、
、そういう考え方もあるでしょう。」
「うん。しかし、このやり方では作品のクオリティを保てなくなるんじゃないか?」
「いえ、むしろ逆です。作品の質を高めるために、あえてこの方法を採用しているのです。」
「なるほど。」
「たとえば、あなたは自分の作品を『無垢』だと表現されていましたが、その『無垢』はどういう状態を指すのですか?」
「それは、何物にも染まっていない、、」
「はい。つまり、真っ白な状態ですよね。でも、それがそのままの状態であるはずがないんです。」
「どういうこと?ちなみに大友克洋さんも庵野秀明さんも大好きなのに、名前が難しくて読みがわかりません。記憶できません。。」
「その答えは簡単。『何色にも染まることができる』ということなんですよ。」
「でも、僕は自分の作品が『無垢』であると信じているんだけど。」
「あなたの言う『無垢』は『純潔』という意味でしょう。その『純潔』を守るのは大変かもしれませんが、それをなくしてしまえば、もう『無垢』ではありません。」
「……たしかに。」
「逆に言えば、『無垢』とは、何者でもない、何者にでもなれるという可能性を持つということです。」
「なるほど。」
「日本のアニミズムじゃないんですけど、ぐにゃぐにゃ、ぐちゃぐちゃしたものが好きです。大友克洋の「 AKIRA 」の最後の肉壁みたいな。妖怪とか触手とか。そんなイメージで楽しく作っております。

「大友克洋って誰だっけ?」
「知らない人はアニメ「スクライド」を観てください。」
「ああ、あのロボとメカが戦うやつか。あれは名作だったなぁ。」
「そうです。あと、「 AKIRA 」に出てきた行為の音楽化として「 AKIRA@2011 」という曲を作りました。」
「へぇ~。」
「この歌は、大友克洋の漫画に出てくる行為をサンプリングしています。」
「どんな行為?」
「セックス。」
「あはは。」
「あと、NHKのドキュメンタリーで見たんですが、大友克洋は漫画家になる前は小説家になりたかったそうな。」
「ほう。」
「だから、彼の漫画には、文章のリズム、言葉遊びのようなものがよく出てくる気がします。」
「な、なるほど。」
「他にも、好きな作家さんはたくさんいますが、やはり影響を受けた人を挙げるなら、手塚治虫先生と藤子不二雄A先生ですね。」
「ああ、わかるよ。」
「とくに手塚治先生の作品の中で、僕が一番好きだったのは「鉄腕アトム」です。」
「ああ、それもいいね。」
「そして、藤子不二雄A先生の作品は、どれもどこか不気味で、何か不思議な感じがします。」
「そういえば、ぼくの友人で藤子不二雄Aのファンがいるんだが、彼はよく『ドラえもん』に登場する人物を「キモッ!」と形容するんだよ。」
「あはは。」
「ところで、君の名前は何ていうんだい?」
「はい。僕の名前は『ナミヤヒロシ』といいます。」
「……はっ!? その名前は聞いたことがあるぞ!確か「ザ・シンプソンズ」のキャラじゃなかったか?」
「はい。実は、僕の本名も『ナミヤヒロシ』なんですよ。」
「えっ?ということは、君は『ザ・シンプソンズ』の登場人物なのか!?」
「いいえ。僕はキャラクターではなくて、あくまで実在の人物なんです。」
「そうなのか? しかし、どうして『 ザ・シンプソンズ』の世界にいるんだ?」
「それは、こちら側の世界から『ザ・シンプソンズ』のキャラクターたちが暮らす世界に迷い込んでしまったからなんです。」
「えっ?どうやったら元の世界に戻れるんだ?」
「残念ながら方法はわかりません。ただ、僕はこの世界での生活を楽しんでいるんですよ。」
「なるほど……。まあ、こっちでの生活が楽しいなら、無理に元いた場所に戻る必要はないかもしれないな。」
「ええ。それに、この世界の食べ物はおいしいですし、娯楽施設やゲームセンターなど、遊ぶ場所には困りません。」
「たしかに。しかし、こんなことを言っては何だが、この『 ザ・シンプソンズ 』の世界にだって、いいところはあるんじゃないか?たとえば……」
「たとえば?」
「そうだな……まず、みんながフレンドリーで、気楽に会話ができるということが挙げられるだろう。」
昼と夜の長さがひとしい日のように、あなたはわたしのすべてだった。
でも、あなたはもういない。
あなたがいない時間は、まるで長い夜のよう。
朝が来ても、また次の夜に怯えるだけ。
それでも、きっといつか夜明けが来ると信じている。
信じていたかった。
「……あ」
ふっと、意識が浮上して目を開けた瞬間、私は自分がどこにいるのか分からなくて混乱した。
真っ白な天井、白い壁、見覚えのない部屋、ベッドに寝転がったまま辺りを見回すと、部屋の隅に点滴台と薬棚が置かれているのが見えた。
ぎしりと重い雷は名字。身体を起こすと、自分の両手を見てぎょっとする。
右手には点滴針が刺さっていて、左手の甲にもガーゼや包帯が巻かれている。
「……なんで私」ぽつりと呟く。
そこでようやく、昨日の事を思い出した。
これほどひどい寒さでさえなかったら、これは美しい氷河だった。その美しさに見惚れて、私は足を滑らせたのだ。
そして、そのまま凍えて死んでしまえばよかったのに、運悪く雪崩に巻き込まれてしまったらしい。
「お目覚めですか」
不意に聞こえてきた声に驚いて、びくりと肩を震わせる。
いつの間にそこに立っていた浮豚の医師が、「おはようございます」と言った。
「……おはようございます」
私が答えると、医師は手にしていたクリップボードに何か書き込む。
「具合はいかがです?」
「頭が痛くて、気分が悪いです」
「痛み止めを出しておきましょう。熱が下がったばかりであるわたしとスクリーンが溶け合う。プライマルスクリーム療法のごとく、この世の果てまで連れ去ってください。あなたの愛は強すぎて、わたしの胸は張り裂けてしまいそうなのです」
いつも通りの戯言を聞き流しながら、ぼんやりとした頭で考える。
「あの、ここって」
「病院ですよ。ご安心なさい。山奥ではありません」
ジョン・レノンもかくやというくらいに、私はほっとする。
「先生、私どれぐらい眠っていたんですか?」
「丸一日ですね。まぁ大したことありませんよ」
大したことがないというわりに、私の顔色は悪いようだ。血色が悪くて青ざめていて、とても健康的。リアル過ぎず、コミックの中の世界のファンタジー感。その微妙な塩梅を表現できる漫画家がいたなら、今すぐ私の担当になってほしい。
「先生、仕事は大丈夫なんですか?」
「今はちょうど忙しい時期ではないので。あと、わたしのことは心配なさらずとも結構です。それよりも、あなたは自分のことを考えてください」
そう言うと、医師は病室から出て行った。
入れ替わりで看護師さんが入ってきて、私の腕から点滴を外す。
「気分はどうですか?吐き気とか頭痛はない?」
「はい。今のところ平気です」
「そう。じゃあ、これから検温しますね。ちょっと冷たいけど我慢して。
…マザーとは地球のことではないのか?そんな風に考えたことはないだろうか? 地球には様々な母がいる。
例えば、太陽。

太陽系の母であり、全ての惑星はその衛星として存在している。
地球もまた、太陽の子だ。
しかし、太陽はたった一つの星。
つまり、全宇宙で一人しかいないのに、子は何人もいるということになる。
ならば、母性というものは一体何なのか。
果たして、私に、母と呼べる存在は存在するのであろうか……?
確かに、この世にただ一人の母親なんて存在しないかもしれない。
でも、きっと。
あなただけの、堆積された音や匂いの記憶があるはず。
だから、あなたにしか作れない世界があってもいいと思うんだ。
それこそ、あなただけの物語。
あなたが紡ぐ世界。
あなたが奏でる世界。
あなただけが奏でられる世界。
きっと、あなたなら見つけ出せる。
さあ、始めよう。
雲を編むように、空へ羽ばたこう。
あなたはきっと、自由になれる。
あなたはきっと、誰よりも輝ける。
さあ、歌ってみよう。
世界はきっと、それを待っているから。
音の雲。良い奴is良い奴。
そんな戯言を騒ぐと、ピンクいろのもやに包まれて、私はあたり一面を見渡すと、そこは掌で、私はアニマルだった。
動物たちが、私に話しかけてくる。
「ねぇ、君はどんな夢を見る?」
「君の夢は、なにかな」
「君が見たいのは、なにかな」
「君の見たいものは、なんだろ」
「君の願いは、なんだろ」
!!全宇宙において残虐無比!!「僕の、名前は……」
「ぼくの名前は…………?」
「……ぼくの、なまえ、は……っ!」
『 』
「うわあああっ!?」
私は飛び起きた。
「あー……またこれかぁ……最近見てなかったのにぃ……」
憩いを経て、分解され、溶け混じる。
私は、自分が何者か分からない。
「ふぅ」
息をつき、時計を見るとまだ夜中の二時だった。
「……寝る前にもう一杯飲んじゃおう」
冷蔵庫からビールを取り出し、グラスに注ぐ。
「ん~」
美味しい。
「スタクテップ、スタクテップ、スタクテップ♪」
思わず歌ってしまう。
「あー、今日も楽しかったなー」
仕事終わりの一杯は格別である。
「はやく彼氏できないかなぁ」
独り身は寂しいな。
「スタクテップ、スタクテップ、スタクテップ」
「え?……今の声って……私?」
私は慌てて鏡を見た。「いや、そんなわけないよね。疲れてるんだよ」
自分に言い聞かせるように、私は呟いた。
翌日、職場に行くと同僚の一人にスタクテップの話をした。
「昨日ね、変な夢見たんだけど、なんか、私が、スタクテップになるっていうか、よくわからないけど」
「あ、わかる。私も前、そういう夢みた」
「やっぱりみんな見るんだ」
「うん。でもあれって、セキグチサトルが関係してると思わない?」
「セキグチサトル?」
「ほら、あの都市伝説の」
「ああ、あったね」
同僚の話によると、セキグチサトルは、インターネットの掲示板で噂になっているらしい。
「へぇ、どんな人なんだろう」
「知らない。でも、その人のブログ、結構面白いよ」
「そうなの?」
「うん」
その日の帰り道、私はスマホで検索した。
「……本当にあるんだ」
「セキグチサトルのブログ」
タイトルは『音雲』という。
私は興味本位で覗いてみることにした。
そして、私は、衝撃を受けた。
そこには、私の夢に出て来たものと全く同じものが書かれていたからだ。
「……どうして」
これは、ただの夢じゃないのか。
私は、自分の頬っぺたをつねった。
痛かった。
「どういうこと?」
「……もしかして、セキグチさんが、私と同じ夢を見てる?」
そう考えるしか無かった。
次の日から、私はセキグチさんのブログを読み漁るようになった。
『今日の音雲』というタイトルのそれは、毎日更新されていた。
内容は、音に関するものだった。
『音とはいったい何なのか?』
『音はどこから生まれるのか』
『音はどこに消えていくのか』
といった疑問から始まり、最終的には、音で世界が救えるかもしれない、というような内容になっていた。
とても興味深いもので、私は時間を忘れるほど、読みふけってしまった。

しかし、ある日を境にブログの更新が無くなってしまった。
気になって仕方がなかった。
どうしてしまったんだろう? 何かトラブルでもあったんだろうか? 私は、思い切ってメールを送ることにした。
すると、返信はすぐに帰ってきた。
「よかった」
ホッとした。
それから、私たちは色々な話をするようになった。
お互いに、同じような夢を見るということも知った。

「お久しぶりです。実は、ちょっとご相談したいことがありまして」
「はい。私で良ければ」
「ありがとうございます。では早速なんですが、私、音は自立的に成長し続けるひとつの状況のように聞こえるのです。そこで質問なのですが、この音には、一体どんな意味があるのでしょうか」
「意味ですか……。うーん、難しいですね。例えば、僕だったら、音の響き方によって、気分が変わるとかありますけど」
「なるほど、響き方で変わるものなのですね」
要素が次から次へと分散し、それぞれが浮遊する。
それらが相互に干渉することで、新たな要素が生まれる。
それら全てが合わさることで、新たな空間が形成される。
そして、それらの全ては、たった一つの存在に収束していく。
私は、音雲になった。
私は、音雲。
私は、音を奏でる。
私は、音が好きだ。

音雲の音は、星々を渡り歩く。
やがて──。
「……あ」
視界に、小さな光が映った。
それはゆっくりと近づいてくる。
「……あれが、そうなのかな?」
光は徐々に大きくなり、それが何か判別できるくらいの距離になった時。
「────ッ!?」
僕は思わず息を飲んだ。
それは巨大な球体だった。
夜空に浮かぶ月のような──いや、それよりも遥かに大きな物体。
銀色に輝くその球体には、何本もの線が走っていた。まるで血管のようにも見えるその線は、ときおり脈打つように点滅している。
「……なんだ、これ……」
あまりの大きさと神々しさに、しばし言葉を失う僕たち。
そんな僕らの前に降り立ったのは、一人の男だった。
背の高い、若い男だ。
顔立ちは整っているものの、どこか冷たさを感じさせる風貌をしている。
黒いコートに身を包んでいるセキグチサトルだ。「…………」
男は黙ってこちらを見つめている。
その視線を受けて、僕は警戒心をあらわにした。
この男が、今回の黒幕なのか? だとしたら──。
「ようこそ、みなさん」
突然、背後から声をかけられて振り返る。
そこにはいつの間にか、もう一人の人物が立っていた。
長身の男の隣にいた少女だ。
美しい金色の髪を持つ彼女は、純白の衣装を身につけていた。白い肌とあいまって、その姿はまさに女神そのものに見える。
そして彼女の隣にいる人物を見て、僕はさらに驚くことになった。
そこにいたのは、スタクテ・キサラギだったのだ。
「……え?」
僕の戸惑いなど気にもせず、キサラギは続ける。
「はじめまして、異世界からの来訪者よ。私はキサラギ。あなたのお名前を教えてもらえるかしら?」
「なっ……」
どうしてここに、キサラギがいるのか。
それに──。
『私の名は、メルティオール』
頭の中に響いてきた声を聞いて、僕はハッとする。
今のはまさか、あの時の──。
『そう。あなたたちが聖女と呼ぶ存在の声です』
やっぱり! でもなんで4枚組にしたんですか?!『そこはそれ、気分の問題ですよ。どうせなら一度に全部見ていただきたいじゃないですか』
まぁ確かにそうなんですけど……。
なんか釈然としないというか。
『では、そろそろ本編を始めましょう』
はい。

それじゃあ改めてよろしくお願いします。